私はあなたの黒い器
金色の雷光剣が一瞬涙を流したかのように、細かい粒子を穏やかに飛散させたこと。シンドバッドが頭を垂れて、何かをつぶやいたこと。その刀身が黒い命脈に飲み込まれる寸前のジャーファルの身体を、貫いたこと――それらは、全てが同時に起きたことだった。
しかし、次の瞬間に、この国の全ての人々。
国を守ろうとする魔導の者や戦士たち。
それに敵対する黒の者たち。
全てが、有り得ない光景に目を奪われる。
貫かれた黒い身体から生の気配が消え、金色の金属器から輝きが失せただの刃物に成り下がり、
沈黙。
静。
しかし突如、肉体と金属器との境界線で、黒が――白に、反転する。
黒い塊となり果てていたジャーファルの全身が、シンドバッドに貫かれたその傷口を起点に明転し、一瞬で光が爆発的に膨れ上がった。
伸び上がる白い輝きが、鳳が天空に昇るような美しさで幾本も伸び上がり、空を覆う黒き軍勢たちを中心から外縁へと次々に撃ち落としていく。
「何が――起こった、クソッ!」
ジュダルは襲ってくる浄化の奔流を間一髪でかわしながら、更なる上空へと逃れる。
倒壊しかけた王宮と、周囲の高い勾配を舐めるように立ち並んだ石造りの建物。すり鉢状になった地形のその、真ん中で凄まじい熱量が生誕の瞬間を迎えていた。ジュダルのいる場所からは、シンドリア全体が大きな白き光に覆われ、神兵たちが玩具のように駆逐されてゆく様が分かる。
なんということだ、と思った。組織が時間を掛けて作り上げた軍団が、こうも容易く退けられてしまうのか。認めはしない。しかしこの状況は、自分が退く他はない。
それほどに、生まれ出でた力は凄まじく強大なものであった――