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その声も、唇も

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 アップテンポなベースと、親しみやすいメロディ、そして歌詞。
 春に大ヒットを記録し、その後も売り上げランキングを賑わせ続けている曲は、テレビやCMなどでもお馴染みのものだった。誰でも一度くらいは耳にしたことがあるのではないだろうか。音楽には興味がなさそうな日吉でさえも。
 ジローの歌声が響くだけだった室内に、ふと、控えめなもう一つの声が被ってくる。
 マイクを遠くに離し、画面からは目を反らさずに、でも、その口は小さく動いている。整った横顔が恥ずかしそうに歌を歌う。日吉のその様子に、ジローはウキウキと気分が高揚していくのを感じていた。
 なんだかんだ言っても、日吉は根っからのチャレンジャーであるから、必ず歌ってくれるだろうと思っていた。画面から目を離さない日吉は、ジローのほうをチラリとも見ない。それをいいことに、好きなだけ思いっきり、眺めることにした。
 最初は面白半分に、からかうような気持ちも若干交えて。けれど、次第に──。
 躊躇いがちに開かれる口元が、なんだかセクシャルで興奮する。歌を歌う姿を見るのは初めてだから、というのもあるのかもしれない。
 ──やべぇ、なんか色っぽい。
 キスしたい。吸い付きたい。そんな衝動に駆られる。
 ──落ち着け、落ち着け、俺!
 逸る心を抑えようとするのに必死で、ジローはすっかり歌うことを忘れてしまっていた。耳に馴染むメロディに載せて聞こえてくるのは、日吉が控えめに歌う歌声だけ。
 はた、と動作が止まる。
 その歌声は、ある意味想像どおりだった。普段の声から想像できる少し高い音で、なおかつ透き通るようなイメージを頭の中に思い浮かばせる。けれど、本物は想像よりも遥かに透明度が高くて、強烈な破壊力があった。
 日吉の歌声に、ジローは聞き惚れていた。
 ──うわぁ……。
 テニスといい、歌といい、日吉はジローの予想をいつも大きく裏切ってくれる。それもいい方向に、だ。
 透明感あふれる清涼な歌声と、それに反するように艶やかで色っぽい唇。
 ヤバイ、ヤバイと心の中で繰り返しながら、日吉の歌にじっと耳を傾ける。もっとずっと聞いていたいと思う魔力に、ジローは溺れきっていた。
 メロディラインだけを残して、歌詞が終わる。残念だと思っていると、日吉が振り向いてきた。
「……ジローさん」
「お、おう! な、なに?」
 やましい心を悟られたかと、咄嗟に身構える。武道をやっているからか、日吉は妙に鋭い部分があるのだ。
「今、歌ってましたか?」
「えっ? え、えーと……、ごめん。途中からは歌ってませんでした」
 正直に告白して、ジローはペコリと頭を下げる。片思い中はもちろんのこと、両思いになってからは尚更、日吉には嘘をつくことができない。もちろん、時と場合は弁えるけれど。
 怒るかと思われた日吉は、やや戸惑ったような感じに眉を下げていた。
「俺の歌なんか、聴いてても楽しくないでしょう?」
 ボソリと呟かれた言葉に、ジローは全力で首を振って否定した。
「なに言ってんの! 俺は聞き惚れていたんだよ!」
「……そんなあからさまなお世辞なんていりませんよ」
「違うって! マジだよ! 大マジだって!」
 嘘だ、嘘じゃない、の問答を何回か繰り返していくうちに、ジローはソファの上をじりじりと移動して、日吉との距離を縮めていた。
 断言できるが、それは無意識のうちの行動である。膝と膝がくっつくまで密着した感触で、ようやく気がついた。日吉の顔が、やたら近くにあることに。
 困ったような表情を浮かべる顔。ジローの目線は自然と口元へと行く。先ほどまで魅了を続けていた、その唇に。
 ──キスしたいな。してもいいかな。いいや、しちゃえ。
 相手の意思だとか、そんなものは無関係に。ジローは腕を回して首元に抱きつき、勢いのままにキスをする。軽く吸い付いてから、少し角度を変えて、今度はやや深めに唇を合わせた。
 親愛よりも深い、熱っぽく絡みつくようなキスを。
作品名:その声も、唇も 作家名:ハルコ