Shall we dance ?
「な、なにしやがるんだ、バカヤロー!」
そう怒鳴りながら、大慌てで、フランシスの手からエリザの手を奪い取る。
さらに、エリザの背中に腕をまわし、肩をつかむと、自分の胸のほうへと引き寄せた。
「離れろ! 変な病気がうつっちまうぜ!」
「ギル!」
エリザは眼を丸くした。
「おかしいわよ、あんた。いったい、どうしたのよ?」
そんなふたりをフランシスは興味深そうに眺めている。
「俺は変な病気は持ってないんだけど」
軽い口調で言った。
それから、ふと、なにか思いついた表情になった。
「いや、俺は病を持っているのかもしれない」
フランシスはさっきまでより低い声で告げた。表情が少し陰り、深刻な様子に見える。
「え、そうなの?」
心配して、エリザはフランシスにたずねた。
すると、フランシスはエリザだけを見て、フッと笑った。
「ああ。だが、病は病でも、恋の病さ。もちろん、君への……」
「だーっ!」
またギルが騒ぎだし、フランシスの台詞をかき消してしまう。
「おまえは変態すぎるぜ、まったく!」
フランシスに向かって吐き捨てた。
そのギルの手がエリザの肩から離れる。
しかし、次の瞬間、今度はエリザの腕をしっかりとつかんだ。
「行くぞ!」
「ちょっと待って、どういうこと!?」
エリザはわけがわからなくて問いかけたが、ギルは返事をせずに歩きだした。
ギルはエリザを見てさえいない。その横顔に浮かんだ表情は不機嫌そうで、口はへの字に曲げられている。
その強い力に引っ張られ、しかたなく、エリザも歩きだす。
けれども、フランシスのことが気になり、振り返った。
眼が合った。
フランシスは笑った。
そして、片眼をつぶって見せた。
ウィンクだ。
伊達男らしく、様になっている。
だが。
「気色悪いことするんじゃねぇー!」
ギルがほえた。
それから、エリザを引っ張る力をいっそう強くした。
「ギル」
エリザはギルに引っ張られて歩きながら、言う。
「さっきのウィンクは、あんたに向かってしたんじゃないわよ?」
「そんなことはわかってる!」
ギルはエリザのほうを向かないまま答えた。
「じゃあ、問題ないでしょう?」
「問題なくなんかねぇよ!」
「どこがよ?」
エリザは問いを重ねた。
しかし、今度はギルは答えなかった。
ギルが変だ。
いや、いつも変なのだが、今はいつも以上に変だ。
そうエリザは思った。
作品名:Shall we dance ? 作家名:hujio