Shall we dance ?
しばらくして、ギルは足を止めた。
エリザも立ち止まる。
「あんたねぇ」
そして、ギルに文句をぶつける。
「主催者のフランシスに失礼なことばっかりして、いったい、どういうつもりなの?」
だが、ギルはそっぽを向いている。
「あんな奴に礼儀正しくする必要はねぇよ。ビールぶっかけてやってもいいぐらいだぜ」
「あきれた」
エリザはわざと深いため息をついた。
「しょうがないわね。あんたの代わりに私がフランシスに謝ってくる」
「そんなことしなくていい。てか、奴に近づくんじゃねぇ」
そう強い調子で告げ、ギルはエリザを引き留めた。
「奴は女たらしで有名なんだぞ」
「そんなことぐらい、私だって知ってるわよ。それに、女だけじゃないんでしょう。好みだって思ったら、相手が男でも口説くんでしょう?」
「う……、そこまで知ってたのか」
ギルは気まずそうな表情になった。
それが、なんだか、おもしろい。
「ローデリヒさんのお屋敷にいても、いろんなところから噂は入ってくるものなのよ」
エリザはいつものように、にっこりと明るく笑う。
「だから、フランシスに口説かれても、他のだれかにも同じようなことを言ってるんだろうなって思うわ。だいたい、さっきフランシスが言ったのは、こういう場所でありがちな、ただの社交辞令よ」
「う……」
ギルは言葉を詰まらせたきり黙っている。反論できないようだ。エリザの言ったとおりだと認めるしかないのだろう。
その様子も、おもしろい。
どうして、こういうことに、ここまで慣れていないのだろう。
やはり、男ばかりの環境に長く居て、戦いばかりしていたせいなのか。
それにしたってねぇ、と思う。
こういった場に出席する機会は、召使いとして他家で働いているエリザよりも多いはずだ。
つかんだら消える泡のような口説き文句のやりとりに慣れていてもおかしくないのに。
慣れないのは、本人の生まれつきの性格が影響しているのではないだろうか。
態度はえらそうだけど、根は真面目で、不器用。
もっとも、だから安心できる。
なんて、思ってみたりして。
「そういうわけだから、フランシスがなにを言おうが、なにをしようが、私は本気にはしないわ。うまく流すわよ。だから、さっきのこと、謝りに行くからね」
エリザは穏やかにさとすように言った。
それで解決するだろうと思った。
けれども。
「ダメだ」
ギルはえらそうに断言した。
その手はエリザの腕をつかんだままである。
作品名:Shall we dance ? 作家名:hujio