Shall we dance ?
エリザは眉根を寄せた。
「なんでよ?」
声も低く不機嫌なものになった。
しかし、ギルは退かない。
「ダメなものはダメだ」
「だから、なにがダメなのよ。理由をちゃんと話しなさい」
エリザは厳しい表情でたずねたが、ギルは返事をせずに横を向いてしまった。
勝手だ。
それに、感じが悪い。
頭にフライパンを叩きつけてやりたい。
だが、今ここにフライパンはないし、あったとしても、このような場所でそんなことはさすがにできない。
エリザは手のひらを拳にグッと握りしめ、ギルをフライパンで殴る様子を想像するだけで我慢することにした。
着飾ったひとびとが、用意された食べ物や飲み物を口にしたりしながら、歓談している。
フランシスは心から楽しんでいる様子で彼らに挨拶をしてまわっている。
ここは交流の場なのだ。
しかし、エリザは壁の花状態である。
そうなったのは、もちろん、隣にいるギルのせいだ。
ギルは他人が話しかけづらいような雰囲気を漂わせて立っている。
特に男性が近づいてくると、ギロリとにらみつけて、相手を退散させる。
悪友のアントーニョ・ヘルナンデス・カリエドが太陽のような明るい笑顔を向けてやってきたときですら、同じ対応で、アントーニョは「なんや、恐っ」と言って去っていってしまった。
ギルは小声でブツブツつぶやいている。
「……やっぱり俺様は強いぜ……だれも近づけさせねぇぞ……」
ケセセセと笑う声が、なんだか暗く響いた。
ここまでくると、腹が立つより、心配になってくる。
「ねぇ、ギル」
エリザは話しかける。
「もしかして、お昼に変なものを食べたりしてない?」
体調の悪さが頭にきた、とか、妙な妄想を見せるものをうっかり食べてしまった、とか。
ギルがエリザを見た。
「変なものなんか食ってねぇよ」
「でも、今のあんたは絶対におかしい。変なものを食べたんじゃないとしたら、なにか心が不安定になるようなことでもあったの?」
エリザは本気で心配して聞いた。
だが、ギルはむっとした表情になる。
「ねぇよ」
「だけど」
「そういうことじゃねぇ」
「じゃあ、どういうことよ?」
今の状態の原因をどうしても知りたくて、エリザは問いかけた。
直後、鈴が高らかに鳴らされた。
なんだろう。
注意が、その鈴の音が聞こえてきたほうに行く。
向けた視線の先には、フランシスがいた。
フランシスは大広間にいるひとびとの視線を一身に集めながら、笑う。
そして、これから舞踏を始めることを宣言した。
ひとびとは壁のほうに移動してダンスをする空間を少しでも広くしようとし、また、逆に、ダンスをしようと何組かのカップルが中央のほうへと進んでいく。
ふと。
隣でギルが動いた。
エリザの正面に立った。
さっきのような不機嫌さはない。
きりっとした表情をしている。
ギルは右手を自分の胸のほうにやったあと、軽く礼をした。
それから、その手をエリザのほうに差しだした。
私と踊っていただけませんか?
そう言われた気がした。
一連の動きは流れるように綺麗だった。
エリザの胸の中で、心臓が一度大きく鳴った。
作品名:Shall we dance ? 作家名:hujio