Shall we dance ?
しかし、動揺を顔には出さないようにする。
平静をよそおいつつ、腕をあげる。
差しだされている手のひらの上に、そっと指を置いた。
もちろん、それはギルのダンスの誘いに応じることを意味する。
一瞬、ギルの表情がやわらいだ。
微笑んだのだ。
嬉しそうに。
エリザの心臓がまた大きく鳴った。
今度も落ち着いているふりをしたが。
そして、ギルとともに歩きだした。
大広間の中央のほうへと、手をつないだまま、進んでいく。
エリザは少し緊張していた。
だが、ギルは平然としている。
このきらびやかな場所でまわりから注目されていても、まったく気にならないようだ。
堂々とした態度である。
すらりとした体格で、身のこなしも良く、立派な服装がよく似合っている。
ああ、とエリザはギルの横顔をちらりと見て思う。
コイツって格好いいんだった。
そんなことは、本人に言ってやるつもりはないけれど。
やがて、ふたりは立ち止まった。
向かい合う。
エリザは真正面からギルを見る。
ギルもエリザを見る。
けれども、その眼はそらされた。
「ギル?」
「……あの、な」
ギルは眼をそらしたまま小声で言う。
「綺麗すぎるんだよ」
「は?」
エリザは首をかしげた。
すると、ギルは困っているような表情になった。
言うのをためらっている様子で、しかし、少しして、口を開く。
「おまえが」
さっきよりももっと小さな声だった。
どういうことかわからなくて、エリザはギルに言われたことを頭によみがえらせる。
綺麗すぎるんだよ。
おまえが。
ちゃんと、つながった。
それで意味がわかった。
意味がわかった瞬間、心臓が大きく跳ねた。
作品名:Shall we dance ? 作家名:hujio