Shall we dance ?
3
ローデリヒ・エーデルシュタインの屋敷のまえにバイルシュミット家の馬車が到着した。
まず先におりたギルに手を取られて、エリザは馬車からおりた。
少し歩き、どちらからともなく足を止めた。
エリザはギルのほうを向いた。
ギルもエリザのほうを向いている。
その眼を見て、エリザは告げる。
「今日は、ありがとう。楽しかったわ」
自然に笑みがこぼれた。
楽しかったという感想は嘘ではない。
フランシスの屋敷でギルと踊り始めたばかりのときは動揺していたが、踊り続けるうちに楽しくなってきて、今はあれこれ考えるのをやめて楽しもうと気持ちを切り替えた。
踊り終わったときには、ギルも気分がほぐれたらしく、男友達が近づいてきても威嚇して去らせることはなかった。
そんなふうに、踊ったり、他のひとびとと交流したりして、本当に楽しかった。
楽しくて、気分が高揚して、その余韻が今も胸にある。
それに。
舞踏会は終わって、ローデリヒの屋敷に帰ってきた。
でも、まだギルと別れたくない気がした。
帰りたくないわけではなくて、もう少しだけでいいからギルと一緒にいたいのだ。
ギルはエリザをじっと見ている。
同じ気持ちなのだろうか。
そうだったらいい。
なんて、思ったりして。
でも。
「じゃあ、私は帰るから」
別れを告げた。
「あ」
ギルは我に返った表情になった。
「……ああ」
エリザから眼をそらし、うなずいた。
気のきいた返事をしてくれるなんて、最初から期待していない。
幼い頃からのつき合いだ。
それぐらいわかっている。
エリザは微笑んだ。
そして、屋敷のほうへと歩きだした。
前庭はフランシスの屋敷のものと負けず劣らず手入れが行き届いていて、ローデリヒの趣味が反映されてもいる。
今は初夏だから、薔薇が美しい季節だ。
薄闇の中でも、気品を漂わせて咲いている。
ふと。
背後に、だれかが近づいてくるのを感じた。
え、とエリザは驚いて、足を止めた。
振り返った。
ギルだ。
作品名:Shall we dance ? 作家名:hujio