Shall we dance ?
そうえいば、馬車の去っていく音を聞いてなかった。
ギルが駆けてきた。
そして、エリザのすぐそばまでくると、立ち止まった。
だが、なにも言わない。
エリザはその顔を見て、問う。
「どうかしたの?」
「……言うの、忘れてた」
ぼそっとギルは答えた。
しかし、続きを言わない。
気まずそうな顔をして立っている。
少しのあいだ待っていたが、エリザは焦れた。
「なにを言うのを忘れていたの? ちゃんと言って。気になるから」
すると。
ギルは心を決めたような表情になった。
その口が開かれる。
「俺は、他に誘える相手がだれもいなかったから、おまえを誘ったんじゃねぇぞ」
強すぎるぐらいの眼差しを向けて、告げる。
「俺が誘いたいのは、おまえだけだったから、誘ったんだ」
勢いにまかせたように語気荒く言い終わった直後、横を向いた。
恥ずかしくてたまらない様子だ。
エリザは驚いていた。
言われたことの内容は完全に予想外だった。
さあ、どうすればいい?
考える。
そして、結論を出した。
もう少し、はっきりさせたい。
「ねえ」
横を向いて黙っているギルに呼びかける。
「もしかして、口説いてる?」
「……っ!」
ギルはエリザのほうを向いた。
真剣すぎて、なかなか怖い表情になっている。
「言っとくが、社交辞令じゃねぇからな!」
そう告げるとすぐさま、また、横を向いてしまう。
社交辞令ではない。
そんなこと、言われなくてもわかっている。
社交辞令で口説き文句を口にするなんて芸当、できるはずがないんだから。
そう思い、エリザは笑う。
それはともかくとして、ギルは認めたということでいいだろう。
口説いてきたということで。
嬉しいと思った。
作品名:Shall we dance ? 作家名:hujio