ぐちゃぐちゃ
遊馬帝・狩帝方面
遡ること数週間前、初めて強く症状が出たときそばに居たのは彼ら二人だった。
優しかった、安心した。
だから、帝人は答えてしまった。
どうしてこうなってしまったのかの経緯を。
それがより事を大きくしたことにその時はまだ気付かなかった。
「やっぱ帝人君は二次元っすね。スペックが違います。現人神っすか?」
「いやー、ほんとほんと。美味しいなんてもんじゃないわよ、みかプー。どれだけ制覇したのかお姉さんにちゃんと報告しなさい」
帝人はファミレスで尋問されていた。
わくわく顔の大人二人に居心地が悪くなりながら「えっと」と指を折り曲げながら口にする。
「臨也さんと新羅さんと波江さんと静雄さんと遊馬崎さんと狩沢さんと保留です」
「保留?」
「同時だったので『戦って勝った方』って答えました」
「さすがっす! 早速使いましたかっ」
「使いどころもバッチリよっ! 偉いわ、おいでおいで撫でててあげる」
狩沢に撫でられながら帝人は幸せに目を細める。
ふあふあとした気分になる。
とろとろとトロケた表情の帝人に「あれ? イザイザとシズちゃん?」と狩沢は首を傾げる。
「みかプーはシズちゃんと何もしてないわね」
「わかりますか?」
「女の勘っすか?」
帝人の言葉を肯定と受け取り納得したように狩沢は頷く。
「だって、あの折原臨也が許すわけないじゃない」
「そーゆーもんっすかねえ?」
「あ、遊馬崎さんは『俺の嫁はみんなの嫁』でも大丈夫な人でしたか」
「いや、いやいやいや。俺だけの嫁であるなら言うことないっすけど、臨機応変と言いますかこんなことぐらいで帝人君の価値は下がりませんってかむしろ急上昇っすよ」
「そうねえ。倍率が上がれば上がるほど落としたときの満足感は大きいわよね。オークションの楽しみって安く買うのより大枚叩く緊張感がいいのよ。手に入れるためにリスクは必要ね」
手を口元に持っていきどこかの犬のように「シシシ」と笑う狩沢。
「そういえば『波江』って?」
「元矢霧製薬の」
「みかプーってば手広い」
嬉しそうに楽しそうに狩沢は笑う。どこか嗜虐的な喜びをにじませた顔。
「女子対決は私とその人かあ」
瞳が鈍くきらめく。
やる気満々である。
「困ったわねえ。どんなんだか知らないけど負ける気がしないわ」
「同じこと波江さんも言ってましたね。『私を選ばないとかあり得ない馬鹿よ』って」
「ツンデレ美人さんっすか?」
「クールぶってるかわいい人です」
「じゃあじゃあ、私はかわいこぶってドライに行くわっ」
キラキラとした満面の笑みに帝人は苦笑いを浮かべる。
「帝人君は攻略ポイントが分かりやすくて分かりにくい。今回はプレイヤー同士の妨害も意味をなさない極限ルールっすからねぇ」
「問題はタイミングね。イザイザそういうの上手そうだから、シズちゃんを配置して争い始めたら私が横からかっさらう」
「のを俺が横から」
「なんの! さらに私が」
「いやいやいやいや、またまた俺が」
言い合いを続ける二人に若干遠い目になりながら帝人は自分の幸せを考えた。
人を信用しすぎるのはいけないとはいえこの結果はそう悪くなかった気もする。
(だって、二人とも悪い人じゃないし)
少し変ではあってもそんなところも含めて帝人はなんだかんだで好きだと思った。