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永遠に失われしもの 第9章

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 四階建ての、これといって建築的特長
 もなければ歴史的価値がある建物でもない
 ローマ警察署の二階にある、
 狭い取調室にラウル刑事と、セバスチャンが
 向かい合わせに机を挟んで座っている。

 後ろの書記用机にはもう一人、記録係が
 せわしなく記録をつけていた。

 窓はこの部屋の狭さをかんがえても、
 あまりにも小さなもので、
 壁の上部に換気のためだけについている。
 おかげで、朝だとはいえ、
 部屋の中はとても暗かった。


 取調べ用の机の上におかれたキャンドルで
 照らされたセバスチャンの顔は
 能面のように無表情であるが、
 そのあまりにも整った顔立ちを前にして、
 ラウルは、彼と少年に
 初めて出会ったときのように、
 その奇跡的な美貌に驚嘆していた。

 
 「セバスチャン・ミカエリス。
  貴方は、この国の法律を知っていますね

  ここでは同性愛は違法です。

  とくに相手が公爵のような14歳以下の
  少年の場合、たとえそれが合意だったと
  しても、強姦罪が適用されます」



 「さすがはキリスト教総本山ヴァチカンの
  お膝元ですね。

  ソドムとゴモラのようにはなりたくない
  ということですか」

  心地よい響きを持つ声で、
  漆黒の執事が答える。



 「この国にも近年、同性愛を開放する動き
  はありますが、
  貴方にとっては残念ながら、
  まだ法律は改正されていません。

  ヨーロッパの他の国の中には、
  違法としない国もあるけれども。

  貴方は、以前は
  英国で執事をしていたとか。
  英国でも禁止されていますよね?」


 「ええ、そうでしたね」

  まるで他人事のように平然と答える
  セバスチャン。


 「貴方は以前も
  シエル・ファントムハイブという
  公爵と同じくらいの年の少年に
  仕えていたと記録にありますが・・

  ずばり率直に言って・・・

  そういう年頃の方でないとダメだという
  性向なのですか?」


  セバスチャンはくっと笑いをもらして、
  言った。

 
 「これは警察の尋問ですか?
  それとも貴方の個人的な興味ですか?」

 

 ラウルは両手の平で大きな音を立てて、
 机を叩き、立ち上がって、セバスチャンの
 タイを引っ張りあげた。
 睨みあうラウルとセバスチャン。