永遠に失われしもの 第9章
(おや...執事君...)
ホテルの前で、手錠をつけられたまま
セバスチャンが警官によって、護送馬車に
乗せられている。
その後ろを通って、
銀色の長い髪をした葬儀屋が
ひっひっと微かに笑いながら、
正面玄関を通り抜けた。
「今日も朝早くから
面白いことがあったみたいだねぇ...」
仏頂面をしたまま、
頬杖をついて座るシエルの前に、
葬儀屋が現れた。
痩躯をわずかにふらふら揺らしながら、
ヒッヒッとしゃくりあげるように
笑っている。
「アンダーテイカー」
「やぁ...公爵
君はつくづく
『裏の世界』が好きなようだねぇ...
晴れて女王の首輪がとれたというのに」
3センチは伸びてるであろうか?
黒く細長い爪をひらひらと動かして、
口元に添えた。
「別に好きなわけじゃ・・」
「そうかい?
まぁそういう事にしとくさ...
で、小生に頼みごとって何だい?..」
「古い話になるが・・
聖ゲオルギウスの魂がどうなったか
知りたい」
「彼の魂が
回収されたかどうか知りたいのかい?」
「ああ、回収されてないのなら、
そのあたりの事情も」
「ふぅん。ちょっと時間をくれるかい?」
驚いた顔をして、
シエルは葬儀屋を見つめた。
「今回はサービスなのか?
いつもなら
『極上の笑い』を必ず求めてきたのに」
「ヒッヒッ、
もう前払いしてもらったからねぇ。
ブラックな笑いを...
今回はもらいすぎた位さ...」
・・何のことを言ってるかは分からないが
まぁいい、いまセバスチャンがいない間に
極上の笑いを求められるのも面倒だ・・
「他にはないのかい...
オレイニク公爵の事についてとかは?」
「いや、いい」
「そうかい...」
銀色の前髪の奥で、緑色の目が光る。
「ところで、公爵。
服は自分で着てしまったのかい?...
ヒヒヒ...
リボンタイが縦結びになってるよ...」
葬儀屋はへらへらと笑いながら、
シエルのタイを指差し、手を伸ばして、
黒く長い爪で器用にそれを結び直した。
シエルは少しばかり顔を
上気させながら言う。
「仕方ないだろう?あいつが・・・」
「自分のことは、自分で...
じゃないと、
あとで後悔することになるよ...」
作品名:永遠に失われしもの 第9章 作家名:くろ