永遠に失われしもの 第9章
時間の許す限り、
会えるだけの事件参考人の元に足を運び、
任意聴取を終えたラウル刑事は署に戻り
書類の山で埋もれた自分の机の前で、
パイプに火をつけた。
もう夜も更け、2時を回っている。
目だった収穫はこれといって無かったが、
彼の心にひっかかっているのは、
やはりあの公爵と執事だった。
(それにしても、エット-レ枢機卿に、
少年を愛する趣味があるとは・・)
近ごろヨーロッパで
認められてきたとはいえ、
ここイタリアでは同性愛は、
発覚すれば即監獄行きである。
ましてそれが14歳以下の少年となれば
さらに重い罪は免れない。
女性との結婚を禁じられている聖職者には
その手の人間が多いとは聞いていたが、
実際にそのような輩と接点を持つのは
ラウルにとっては初めてのことだった。
公爵と会った後に、
部下に調べさせている記録の中にも、
一般からの陳情として記載された謁見者の中には、
男娼で生計を立てる少年の名が、
いくつも見つかったのだ。
加えて、あの公爵とよばれる少年の美貌。
エット-レ枢機卿の食指が動いたとしても
何らおかしくはない。
実際に何をされたか、まではわからないが
あの執事がついていながら、
何ができるというのだろうか・・
ともかく明日すぐにでも枢機卿補佐官に
もう一度話をきかなければ・・・
あの公爵がこの国に来た前後のことも
調べてみなくてはならないだろう。
公爵家のあるシレジア地方といえば、
ポーランド王家領や様々な大公領が複雑に
入り組んだように配置され、さらに近年は
ドイツとの紛争で、国境線などあって無き
が如しの状態である。
ポーランド警察に彼らのことを照会しても
数週間、数ヶ月はかかるであろう。
大公領の支配者である公爵に関する
情報となれば、永遠に
手に得られないかもしれない。
だが、あれだけの人目を惹く
美少年と美貌の執事のことなら、
一度会ったことのあるものなら、
必ずその記憶に残しているに違いない。
「レオ・アウグスト・オレイニク公爵の
エットーレ卿と面会した後の
足取りを追え!」
鋭い声で部下に指示を飛ばすと、
ラウル刑事は一瞬考えてから、
電話に手を伸ばした。
「・・私です。ラウルです・・
実は折り入ってお頼みしたいことが・」
作品名:永遠に失われしもの 第9章 作家名:くろ