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永遠に失われしもの 第9章

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 セバスチャンが寝室のカーテンを開ける。
 まばゆい朝日が途端に差し込んで、
 シエルは目をこすった。

 
 「朝になりましたね」



 ・・本当にセバスチャンは
 ・・僕を寝かさなかった・・
 いや・・僕も・・
 寝たいとすら思わなかった・・
 
 ・・あまりにも夢中で・・



 実際は、想像も絶する陶酔で、
 シエルの意識は幾度と無く
 身体から離れそうになっていたのだが、
 
 その度ごとに、セバスチャンは
 シエルの口腔の奥深くに舌を入れて、
 意識を戻させていたのだ。

 意識の抜けた抜け殻では、興ざめだと
 言わんばかりに。



 ・・分かってる、
 お前だって飢えていることは・・
 僕がお前で
 喰らい継いでるのと同じように
 


 セバスチャンの歯が小さな牙に変化する
 その度ごとに、シエルは
 この悪魔も、自分の舌を傷つけ
 唇を噛み、吸い尽くしたいのだろうと
 わかっていた。
 でも彼は一度として、そうはしなかった。

 
 ・・自制心のきく犬というわけか・・


 シエル自身が
 彼のような自制ができるとは、
 自分でも思わなかった。

 漆黒の悪魔の甘美な血の口吻は、
 与えられた一時は、
 とてつもない充足感をもたらすけれども、
 またすぐに、今度は倍以上の
 過酷な飢えと
 希求とを、
 シエルにもたらすのだ。
 


 ・・火のついた馬車に乗り、
   断崖をめざして
   駆け上っていくようなものだ・・

 そのまま火の回るのを待つか、
 疾走して、崖から飛び降りるか・・

 ・・僕は座して死を待ちはしない



 「もう支度をしませんと、直に
  葬儀屋さんがいらっしゃいますよ」



 ・・ああ、そうだった・・


 「聞かなくてはならないことが
  ありますし」
 

 ・・僕が魔剣を手に入れて、
 悪魔としての生を終えると決断して以来、

 セバスチャンは、
 表情豊かになった気がする・・


 「ぼっちゃん」


 悪魔に、活き活きとというのも変だが・・
 まさにその言葉通りに。

 こいつも僕の
 その決断を望んでいたと?・・
 薔薇迷宮の誓いからの
 永遠の呪縛から逃れるために?・・


 ・・きっと考えても無駄だろう


 こいつの考えていることは
 さっぱりわからないし、
 わからせようともしないだろう・・

 僕が人間であったときも、
 悪魔である今も。


 「アーリーモーニングティーの
  支度ができております」