永遠に失われしもの 第9章
シエルは一晩中火照った
その躯を冷やしたくて、
例によって空のカップに口をつけた後、
セバスチャンに入浴の準備をさせた。
漆黒の執事はシエルの背中側から、
シエルの上等な陶器のような
滑らかで、柔らかい肌を
貴重品を扱うかのように丁寧に撫で、
洗い清めている。
「ああ--」
突然、セバスチャンが嘆息をもらし、
シエルが振りかえった。
「ぼっちゃん、すみませんが、
もうお出になってください」
何事か?と思いながらも、
セバスチャンの用意した白いバスタオルに
包まれる。
セバスチャンは、よほど急いでいるのか、
待ってはいられないとばかりに、
バスローブを羽織らせると、
シエルを抱きかかえあげて、
バスルームを出て、寝室にもどる。
・・下ろせ!・・・
・・何をそんなに・・・
シエルの元々の濃紺色の髪の水分を
丁寧に、しかし手早くふきとると、
セバスチャンは頭にそっと手を添えて、
また金色に変えていく。
「何があった?」
「説明は後でしますので」
セバスチャンの手を払いのけ、
瞳を悪魔の炎で燃やしながら、
暫く黙り込んだ。
・・また、説明もなしか!・・・
漆黒の執事の大きなため息が聞こえた時に
シエルはかっとなり、
漆黒の執事に向かって怒鳴った。
「お前は僕の駒・・
僕の犬だ。
僕の命令なしに、勝手なことをするな」
「服を着ませんと--」
「話を聞け!」
怒鳴っているうちに、
だいたいこの公爵の設定の件といい、
勝手なことをしすぎると、さらに
シエルの怒りが募るばかりである。
服の用意をしようとしている、
セバスチャンを呼びつけ、
側にこさせ、説明を聞こうとしている時
突然スィートルームにノックも無しで、
どかどかと、ラウル刑事と幾人かの警官が
踏み込んできた。
「レオ・アウグスト・オレイニク公爵執事
セバスチャン・ミカエリス!
あなたを、同性愛禁止法ならびに
児童強姦禁止法に基づき、
直ちに連行します」
シエルが白いバスローブ姿のまま、
寝台から立ち上がって怒鳴る。
「なんだと???貴様・・・・・
僕の執事に」
言葉を遮るように、ラウル刑事と警官が
シエルをセバスチャンから引き離すように
腕を押さえつけた。
セバスチャンは黙々と無表情に
手を差し出して手錠をかけられている。
「僕に触るな!」
手を振りほどこうとするシエルに、
「あなたも、彼の邪魔をするなら
公務執行妨害罪になりますよ」
と鋭い目でラウルが制する。
・・そんなもの、構うものかっ・・
再度、シエルが手を振り解こうとした時、
セバスチャンが思惑ありげな目をしながら
シエルに声をかけた。
「それでは、ぼっちゃん、
行ってまいります。
ご心配なさる必要はありません。
貴方は貴方の為すべきことをすれば
良いのです」
・・確かに彼は悪魔なのだから、
警察に捕まったからといって、
どうということはないはずだ・・・
・・わかってる、セバスチャン。
アンダーテイカーに必要なことを
聞けばいいんだろう?・・・
作品名:永遠に失われしもの 第9章 作家名:くろ