銀誕企画ログ
大きな贈り物
神楽は走った。
何度も躓き転びそうになりながらも、それでも神楽はその足を休める事をしなかった。
足がじくりと痛んでも、吐く息が浅く苦しいものになっても、彼女は目的地へと向かって只管走り続けた。
周りは少しばかり薄暗く、足元では木の根が這い方々に好き勝手に生えた草が、隙あらば絡まろうと狙っている。足がちくりと痛むのは、若しかしたらその柔らかな凶器で切ってしまったからかもしれない。
明らかに人が何度も踏み締め出来た、お世辞にも舗装されたとは云い難い細く長い小道を、彼女は始終無言で先を急ぐ。
―――少し休もうなどという考えは、今の彼女には微塵も浮かばなかった。
そうしてガサリと一際大きな音を立てて一歩を踏んだその先、漸く目的の場所へと辿り着いて、神楽は安堵と感嘆の息を吐いたのだ。
見晴らしの良いその場所は、神楽が偶然見付けた、一人だけの秘密のお気に入りの場所だった。
歌舞伎町から少しばかり離れたその土地に、この小高い丘があり、偶々其処を通りかかった彼女は、同じ様に偶々暇を持て余していたのも手伝って、頂上を目指す事に決めたのだ。
鬱蒼と茂った木々に興味と気味の悪さを覚えながら、それでも好奇が勝った心は無意識に身体を動かしていて、気が付いた時には神楽は丘の天辺でへたり込んでいた。
その時の光景を、今でも鮮明に覚えている。
「うん、やっぱり良い景色アル!」
見てろヨ、銀ちゃん。
そう嘯いた神楽の声は、心なしか弾んでいた。
眼下には街並みが広がり、時折風がゆるりと吹いて優しく頬を撫ぜる。少し目線を上げると青空を一望出来るその場所は、絶景と称するに相応しい。
神楽はくるりと向きを変えると、ポケットから皺くちゃになったポリ袋を出し、それを広げて無造作に地面に置いた。
そうしてぶちり、ぶちりと生い茂る雑草を抜き始めた。
「銀ちゃん真ん中、私隣。新八はメガネで、定春は…此処ネ!」
始終口角を上げたまま、ぶちり、ぶちりと草を引っこ抜いては袋に投げ込み、四人分のスペースを作っていく。
「コレ見たら銀ちゃん、きっと腰抜かすアルネ」
にひ、と意地悪い顔を浮かべ、肩を震わせ笑う。けれどもそれでも、その瞬間でも、その手を休める事は無かった。
ぶちり、ぶちりと草を抜く音だけが響く狭い空間の中、近い未来に思いを馳せながら、神楽はゆうるりと笑った。
「誕生日おめでとう、銀ちゃん」
早く明日が来ます様にと。