テニスlog
ぴよんぴよんぴよん、
例えば擬音を付けるのなら、きっとそんな音。
「今日は風が強いねー」
片手で髪を押さえながらそう呟く先輩は、けれど何処か嬉しそうだ。
嵐の前触れでも無いのに吹き荒ぶ強風は、生温い温度と湿気を孕んで、容赦なく身体に打ち付ける。
ぶわりと舞い上がった土埃が器官を通って、身体全体に巡り回った様な感覚がした。
ざらりと茶色い景色の向こう、赤いいろがにやりと笑う。
「もーも!何してんの。早く来いよ!」
矢張り彼は上機嫌だ。
こんな日はセットが乱れると八つ当たりされるのが常だと云うのに、珍しい事もあるものだと、軽く息を吐いた。
―――何時だって、この人の奥底は計り知れないのだ。
追い駆けた視線の先、赤い髪が撥ねた。
ぴよんぴよんぴよん、
例えるならそう、
ぴよんぴよんぴよんと、
そんな擬音が付きそうな。
軽い足取りに合わせて揺れて、風に乗って踊る赤。
ぴよんぴよんぴよんと、
そんな音を醸し出しながら、赤を散りばめていく。
まるで自我を持っているかの様なそれに、
何だか動物の耳みたいだとぼんやり思った。
end.