テニスlog
「…先輩?」
ふいに視界から消えた存在に、おや、と思う間もなくずしりとその重みを感じた己の脚に、桃城はそっと下を窺った。
勢いが良過ぎたそれはジン、と痛みを訴える。
それを知ってか知らずか、桃城の脚を占領している無法者は微動だにしない。
首を傾げ、覗き見た方々に散らばった赤い髪の下から、きっちりと閉じた瞼が見えた。
「先輩?」
再度問い掛けても、思った通り、それからは返事は返ってこなかった。
その余りにも目に余る行為に、憤る事も煩わしいと眉を顰める事もせず、桃城は唯黙って己の脚に意識を集中させる。
静かな空間に聞こえてくるのは、健やかな寝息だけだ。
呼吸に合わせて微かに震える睫を何くれとなく見詰めて、そっと額に落ちた前髪を払ってやる。
「そんなに眠かったんスか」
思わず出た苦笑いに、けれども咎める声は無く。
ゆるやかに、静かにそっと、時間だけが過ぎて行った。
end.