リョ菊log
葉書
「暑中お見舞い申し上げます」
八月も半ばを過ぎ、母方の実家から帰ってきて自宅のポストを覗いてみると、そう書かれた、それだけしか書かれていない葉書が一枚、投函されていた。
「誰からだろ?」
葉書を裏返して宛て先を見る。
大体予想はついてるけど。
それでもきちんと自分の目で確かめたくて。
「ああ、やっぱり」
差出人は、越前リョーマ。
今年テニス部に入った、生意気で、でもどこか憎めない二つ下の後輩。
「…あれ?」
良く見ると住所も郵便番号も書いていない。あるのは差出人と受取人の名前だけだ。ということは、わざわざここまで投函しに来たってことになる。
それの意味するところは、
『早く会いたい』
口許が緩むのを押さえ切れない。
自分も同じ気持ちだと、今すぐ伝えに行きたい衝動に駆られる。
例えば今、返事を書いてすぐにでもキミの元へ行けるけど。
それはちょっと止めておくことにする。明日からは部活があるし。
たまには我慢もいいかもしんない。
「ちょっと英二!今からどこ行く気?!」
母さんの呼ぶ声がする。
「返事、出しに行ってくる!」
そう言うや否や、俺は走り出した。
明日があるのに。
居るかどうかも分からないのに。
――我慢するって、さっき決めたばかりなのに。
なのに何で急いで走ってるんだろう?
息切らして。
全力疾走して。
ああもう、馬鹿みたいだ。
馬鹿みたいだけど。
でも。
でも、会いたいんだから仕方がない。
足取りは軽く、
気分は上々。
キミに向かって、
一直線。
だからきっと、キミに会えるよ?
きっとね。
end.