桃菊log
弱い男
「先輩、コレ…何なんスか……?」
「ん?見ての通り」
「いや、そうじゃなくて、」
「だから、何種類かのアイスクリームでしょ。生クリームにチョコシロップ、マーブルチョコとブランデー。ええっとそれから」
「数種類の果物にナッツ類。小豆もありますね…。抹茶に黄粉に…芋?」
「何だ、ちゃんと分かってんじゃん」
「…だから、そういう事じゃなくてですね。行き成り家に来て、こんなもん持ち込んで。一体何をするつもりなんスか」
「まあま、それは出来てからのお楽しみ」
「すんません、言い方間違えました。これを調理してどうするつもりなんですか」
「お前に食わせる」
「はあっ?!」
「だって今日、お前の誕生日じゃん」
「……あ」
「あ!あーもー!内緒にしとく筈だったのに言っちゃったじゃん!!お楽しみにする筈だったのにーっ!」
「いや、それは先輩が勝手に」
「何?」
「いえ、すんません」
「はぁ。ま、いっか。兎に角そういう事だからさ、その辺適当に座っといてよ」
「……ここ、俺の家なんですけど何でそんな偉そうなんスか」
「男が細かい事気にすんな。台所借りっぞ」
「はぁ…」
「よーっし!張り切って作るぞー」
「あの、一つ疑問があるんスけど。これで何を作るつもりで?」
「んー?アイスケーキパフェ?」
「……………ケーキパフェって何スか。ケーキパフェって。しかも何で疑問系なんですか」
「スポンジなくてカステラにしたけど良い?」
「話を逸らさないで下さい」
「調味料借りるぞー」
「あ、そこの棚の左側に…って何で調味料?!」
「あ、ボウル発見!」
「先輩俺に何食わせる気ですか!!」
「だからアイスケーキパフェ?」
「……調味料は…?」
「うっさいなぁ、もう。じゃ、種明かしするけど、単に普通のヤツじゃ面白くないでしょ?だからここはパーっと奇抜に、何種類も味が楽しめちゃうやつにしようかと思って」
「パーっと奇抜に?何種類も?!」
「そう。あ、大きめのお皿とかある?深めが良いな」
「…これなら」
「ん。それでオッケー」
「何種類って…どんな味付けに……?」
「えーっと、和風テイストに、ピリ辛テイスト。スタンダードにチョコでしょ。で、この辺はプリンパフェっぽくしたいな。こっちはストロベリー。ここはフルーツポンチっぽく」
「フルーツポンチって液状じゃなかったっスかね…?」
「あ、ここの下はあんみつにしようかと思ってんだ」
「……」
「何層もあった方が愉しいだろ?」
「…そういうもんスかね…」
「これ作る為にわざわざ色んな店行って試食して来たんだぞー」
「もしかしてそうやって食べて美味しかったものを全部取り込んでみた、とか言いませんよね?」
「ビンゴ!正確には美味しかったものと気になったもの、だけど。だいじょぶ、ちゃんと見たし。大体分かるよ」
「見ただけで?」
「パフェなんて見れば大体何が入ってるか丸分かりじゃん」
「…辛いのは何故に?」
「ああ。こうも甘いもの尽くしだと、ちょっと違ったものが食べたいかと思って。飽きんだろ、甘いのだけだったら」
「…いっそ甘いのだけで良かったっスよ……」
「え?何?」
「いえ、楽しみにしてます……」
「おう!腕によりをかけて作るからな!!」
「じゃ、俺、出来るまでちょっと買い物にでも行ってきますね。買いたいものがあるんで」
「分かった。それまでには仕上げとくよ」
「………ハイ」
□
「あれ?お兄ちゃん。何処行くの?」
「ちょっと其処の薬局まで行ってくる」
「……薬局?何処か具合でも悪いの?」
「そうじゃねぇよ。いや、そうなる…のか?」
「お兄ちゃん?」
「気にすんな。じゃ、行ってくるから」
「うん。あ、ところで何買うつもりなの?」
「………ちょっとした暇潰し。すぐ戻るから」
「??行ってらっしゃい?」
「ああ」
「胃薬だなんて、言えるわきゃねーよなぁ、言えるわきゃねーよ……はぁ」
―――それでも、貴方が作ったのならば。
end.