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だぶるおー 天上国 王妃の日常2

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「ああ、ちゃんと娼妓とさせたぜ。まさか、ジョシュア、刹那が俺が初めてとか思ってたのか? それはないぞ。」
 すでに生きている年数で言うと、ジョシュアの倍は刹那は生きている。それまで、何もなかったら、それはそれで問題だ。そろそろいいだろうという頃合を見計らって、ニールが刹那とティエリアを花街に連れて行った。そこで、体験はさせているし、それからも何度かは遊ばせた。
「ティエは一回で懲りたのに、兄さん、強制してたみたいだぜ? ジョシュア。」
「だって、こういうのは経験が物言う部分があるだろ? いつそうなるかなんて誰にもわかんないんだし、そういう時に慌てないように、と、思ってさ。」
「おまえはおかんかっっ。」
「てか、それだけ下準備してやって、自分が食べられてるんだから、未来って読めないよねぇ。」
「うるせぇーよ。おまえだって、元彼の女房を召還することになるなんて・・って騒いでたじゃないか。」
「ごめんね、兄さん、クラウスは今でもセフレ。それについては、アニューもシーリンも公認だから。」
 はい? と、ジョシュアが驚嘆の声をあげるようなことを、ライルはさらっと吐いている。元々、ライルは、どちらでも良かった。というか、女たらしの能力のお陰で、どこまでが、自分の魅力なのかわからなくて、男性との恋愛のほうが真実味があったかららしい。たまたま、ライルがアニューに惚れたから、この形に収まっているが、それでも肉体的なことは、別物らしい。
「まだ続いてるのか? 」
「さすがに、アニューは俺を抱けないだろ? そういう気分の場合だけ、シーリンに貸してくれるように頼んだ。」
「シーリンは了承したんだ。」
「うん、俺とクラウスのことは元から知ってたからね。アニューも納得してるから問題なし。」
 能天気に語られている内容は、いいんかい? と、ツッコミどころ満載だが、ニールも気にしていない。たらし能力の弊害みたいなものだから、それについては仕方がないと思っている。刹那が、王妃に指名しなかったら、ニールが当主だったから、普通に女性と結婚して子孫を残すことになっていたはずだ。そうだったら、ライルはクラウスを伴侶にしていたかもしれない。異性はたらし能力で、落とせるから、それが自分の力だと自覚しにくい。どんな女性も思いのままにできてしまうから、女性に興味が持てなかったのだが、アニューは、たらされなかったばかりか、妖精本来の性質が色濃く出た性格だったから、ライルのほうが魅了されたのだ。伴侶となる相手には効かないと言われていることを、ライルも、それで実感して求婚した。
「いいけど、ほどほどにしとけ。」
「了解。ほら、あーんして? 」
 はいはいとニールがスープを飲ませてもらっている。ジョシュアは、驚いたものの、とりあえず食事に専念することにした。特殊な能力というものは、当人にとって益ばかりではないらしい。食事が終ると、シップを貰ってくると、食器を運んでライルが出て行った。
「たらし能力って、そういう問題もあるんだな。」
 ようやく質問できそうだと、ジョシュアが口を開く。まあな、と、ニールも苦笑する。
「ライルの場合、女性なら、大概、声をかければ自分の思うようにできちまうだろ? だから、それって、本当にライルのことが好きになってくれたのか、それとも能力の所為なのか、ちっともわかんないんだよ。」
「それで男に走ってたってか? 」
「まあ、男ならさ、そういう能力は関係なく互いの意思疎通みたいなものができるから、恋してる実感みたいなものはあるんだってさ。」
「そうだよなあ。おまえも、グラハムみたいなのに襲われたのも、そういうことだもんな。」
「ありゃ極端なんだけどさ。・・・刹那も最初は、そうなんじゃないかなと心配したんだけどさ。」
「あー滞在一ヶ月の俺が言うのも、なんだけど、それはない。あれは確実に、おまえに惚れてる。大丈夫だ。自信持て。」
「なんで、俺なんだか・・・・もうちょっと、いいのにすればよかったのに。」
 養い親としては残念だ、と、苦笑するニールは、本当に残念そうだ。これには、さすがに日の浅いジョシュアでは言葉が出ない。普通に考えたら、ニールの意見に賛成したいところなのだが、妖精王の執着を、端から伺っている限りは、そうでもないんじゃないか、という意見が頭にもたげてくる。育てていた養い子に嫁に貰われるというのは、ちと気分的に複雑なのだが、そこまで想われているというのは、幸せなことだとは思われるからだ。
「悪い、コメントできん。」
「はははは・・・そりゃそうだ。まあ、刹那は、そのうち、別に女性とも付き合えばいいと思うんだ。そうすりゃ、女性のほうがいいっていうのも理解するだろうしさ。」
「それは無理だと思う。あいつ、おまえ以外には眼中にない。」
「今はな。でも、これから何十年何百年と時間はあるから、そのうちにってことだ。」
 それでも無理じゃないかな、と、内心でジョシュアはツッコミはした。刹那の初恋の相手で、それから何十年も想ってきたというのだから、すでに、それは過ぎているだろう。なぜか、ニールは、その部分がわからないらしい。他のものに聞いても、それがニールなんだけど、とは言うが、ジョシュアも、そう思う。たらし能力の弊害というのが、根底にあるのだろう。ニールの能力は、男たらしだ。だから、ライルとは逆のことになる。だから、相手が女性なら問題はなかったが、よりによって、相手が男だから信じられないということになる。


 ライルがドクターモレノと一緒に戻って来た。ついでに、刹那とティエリアも一緒だ。
「刹那、治してくれ。」
 ようやく動けると、ニールは刹那に頼んでだが、すげなく断られた。
「断る。」
「おまっっ、なんでだよっっ。」
「あんたが動けないと、居場所がはっきりするし逃走されなくて済む。だから、しばらくは休養していろ。・・・・ということで、ドクター、治療してやってくれ。ただし、癒しは使うな。薬剤だけだ。」
 どんだけ信用ないんだ? と、ニールは怒っているが自業自得の感が否めないので、ドクターもシップを貼っただけだ。
「おまえさんが大人しいのは、何よりだと私も思うね? 」
「いや、俺にも仕事ってーのがあるんです。」
「王妃の仕事は、王の側にいることだろ? 」
「ディランディーの仕事もあるんですが? ドクター。」
「そっちは、俺がやるからさ、兄さん。」
「とりあえず、少し身体を休めてください、ニール。今は、それほど忙しい時期ではない。」
 どう反論しても、周囲が論破する。実際、ニールは王妃としての仕事で、へばっているわけだから、しっかりと役には立っているから、他の仕事などしなくても問題はない。
「腰は温めて、滋養のあるものでも食べていれば、すぐによくなる。しばらくは安静だな。シップは、半日に一度は取り替えてやってくれ。」
 はい、と、ティエリアがシップを預かる。看護するつもりらしいが、刹那が、それを奪い取った。
「刹那、おまえ、まさかと思うが。」
「しない。だが、王妃の世話は、俺がする。」
「待て、刹那。せめて今日ぐらいはゆっくり寝かせてやってくれ。兄さん、本当にまいっちまう。」