かぐたん&ぱっつんのやみなべ★よろず帳
×月×日(4)
ここんとこ、シーズン何回目かでぱっつんはしゅんとしていた。
理由は言わずもがなの単純明快である。マ夕゛オのおっちゃんがまたも毎度のルーティンワークで失踪カマしたのである。
「ボク、なんだかもう疲れたよ……」
午後のおちゃのじかん、じむしょのてーぶるでぽっとを抱えたぱっつんがぽつりと言った。捕まえたと思っても、すぐにふらりと行方を晦ますおっちゃんを執念で追いかけるのも信じて待ち続けることにも、その両方にこの頃じゃすこぶる懐疑的なのだというようなことを淡々と漏らす。
「……。」
白磁のカップに注がれたすとろべりーちぃーと発酵バターの香り豊かなブルーベリーすこーんを交互に口に運びながら、私はあっさり彼に言った。
「疲れたんならやめれば?」
「……!」
ぱっつんがはっとしたように顔を上げた。カップから上がるちぃーの湯気で眼鏡のレンズは曇っている、さみしいぱっつんのココロと同じに、だけど私は知っている、つかいやがうえにも知らされてしまった、――だってアンタら、そやって障害込みのじょーきょー設定こさえて盛り上がりたいだけでしょーって、……まったくもー、周囲巻き込んだ劇場型ぷれいの好きなヒトたちなんだからーはためーわくな!
「……ぐっ、グチくらい聞いてくれたっていいじゃないか、」
ポットを置いて、カップの中身をずぞぞぞ猛烈な勢いに半分ばかし啜りながらぱっつんがスネた。グチじゃないですそれはノロケって言うんですー、私は言ってやりたいが、ンな本当のこと言ってぱっつんにガチでヘソを曲げられて明日からこのおいしいおちゃがしにありつけないのは困るので、
「ウン、そーだね、本当に困ったおじちゃんだね、」
てきとーに当たり障りのないあいづちを打っておいた。
「……、」
と、大げさなため息を漏らしてぱっつんが言った、
「そうだよ、名前どおりのマ夕゛オなんだよ」
ぱっつんがもうひと口ゆっくりとお茶を啜った、
「――でもね、」
(……。)
――来たぞ来ましたぞ、両手で抱えたカップを口元に、上目でぱっつんの表情をうかがって私は思った。ぱっつんがゴホンと勿体つけた咳払いをした。
「ほら僕前にさ、マ夕゛オさん追っかけて遠くの海の方行って、タチの悪い火山灰ワカメ講に引っ掛かってどえらい借金こさえたことあったじゃん、」
「……あー、」
――あったね、そういうこともね、私は半目に頷いた。ぱっつんは構わず続けた。
「実はあのお金、知らない間にマ夕゛オさんがそっくり返しといてくれたんだ、」
――ああ見えて、意外とそういうとこあるんだよあの人ウフフ……☆
「……」
――やーめーてー、おながいだから本気でデレるのはやめてー、私は心底思ったが、敢えてのオニの仏心で口に出すのはガマンした。
それに私は知っているのだ、コトの真相ってヤツを、ぱっつんはマ夕゛オのおっちゃんがこつこつ働いてアレを返したものと思い込んでいるらしいが、何のことはない、マ夕゛オのおっちゃんはぱっつんが引っ掛かったのよりもっと悪徳高利貸しにウマイ話で乗せられてがっつり借金したヤツを軽い気持ちでワカメ講の弁済に当てたので、今もってガチガチに首が回らないのである。おそらく今回の失踪の背景にも件の事情が絡んでいるに違いあるまい。……まぁ、ぱっつんの男のろまんをブチ壊しにして恨みを買いたくないので黙っておくが。
「マ夕゛オさん、今頃どこにいるのかなぁ……」
窓の向こうに広がる空をぼんやり眺めてぱっつんが言った。
「……」
――さぁ、案外天井裏とかね、何の気なし、スコーンをくわえて私は目を上げた。
「!」
――うそぉ!! 張り付いた板の隙間から下界を覗くおっちゃんのグラサンと目が合った。おっちゃんが慌てて「しー!」のポーズを取った。無論ぱっつんに言えるはずもない。
「……そうだ!」
両手を叩いてぱっつんが花柄テーブルくろすの座席を立った。……それにしてもぱっつんはいつからお紅茶せっとに凝ったりいそいそプラムケーキこさえたりするようなキャラに変貌したのだろう、知らぬ間に人格までも変えてしまう、恋って本当にオソロシイ、私はつくづく認識を改めた。
「マ夕゛オさんが帰ってきたらすぐに焼いてあげられるように、ドライフルーツの仕込みしておかなくちゃ! 上等のラム酒使ってね!」
――ボクちょっと買い物行ってくる!
外したひらひらのフリルエプロンをソファの背に掛けて、ぱっつんはじむしょを飛び出していった。
「……」
私はおっちゃんに合図した。天井裏から埃とクモの巣まみれのマ夕゛オのおっちゃんがするする降りてきた。
「あい、」
ちょっと勿体なかったけど、私は銀トレイに載ったすこーんをぜんぶマ夕゛オのおっちゃんにくれてやった。
「あっ、りがとう!」
マ夕゛オのおっちゃんは咽び泣きながら貪るようにすこーんを残らず食い尽くした。いつまで隠れてるつもりか聞いておこうかと思ったけど、どうせほとぼり醒めるまでずーっとウチの天井裏にいるんだろうしまぁいっか、
「――、」
猫背を丸めてゴホゴホむせているおっちゃんに、私はすっかり冷めたすとろべりーちぃーを勧めた。
+++
ここんとこ、シーズン何回目かでぱっつんはしゅんとしていた。
理由は言わずもがなの単純明快である。マ夕゛オのおっちゃんがまたも毎度のルーティンワークで失踪カマしたのである。
「ボク、なんだかもう疲れたよ……」
午後のおちゃのじかん、じむしょのてーぶるでぽっとを抱えたぱっつんがぽつりと言った。捕まえたと思っても、すぐにふらりと行方を晦ますおっちゃんを執念で追いかけるのも信じて待ち続けることにも、その両方にこの頃じゃすこぶる懐疑的なのだというようなことを淡々と漏らす。
「……。」
白磁のカップに注がれたすとろべりーちぃーと発酵バターの香り豊かなブルーベリーすこーんを交互に口に運びながら、私はあっさり彼に言った。
「疲れたんならやめれば?」
「……!」
ぱっつんがはっとしたように顔を上げた。カップから上がるちぃーの湯気で眼鏡のレンズは曇っている、さみしいぱっつんのココロと同じに、だけど私は知っている、つかいやがうえにも知らされてしまった、――だってアンタら、そやって障害込みのじょーきょー設定こさえて盛り上がりたいだけでしょーって、……まったくもー、周囲巻き込んだ劇場型ぷれいの好きなヒトたちなんだからーはためーわくな!
「……ぐっ、グチくらい聞いてくれたっていいじゃないか、」
ポットを置いて、カップの中身をずぞぞぞ猛烈な勢いに半分ばかし啜りながらぱっつんがスネた。グチじゃないですそれはノロケって言うんですー、私は言ってやりたいが、ンな本当のこと言ってぱっつんにガチでヘソを曲げられて明日からこのおいしいおちゃがしにありつけないのは困るので、
「ウン、そーだね、本当に困ったおじちゃんだね、」
てきとーに当たり障りのないあいづちを打っておいた。
「……、」
と、大げさなため息を漏らしてぱっつんが言った、
「そうだよ、名前どおりのマ夕゛オなんだよ」
ぱっつんがもうひと口ゆっくりとお茶を啜った、
「――でもね、」
(……。)
――来たぞ来ましたぞ、両手で抱えたカップを口元に、上目でぱっつんの表情をうかがって私は思った。ぱっつんがゴホンと勿体つけた咳払いをした。
「ほら僕前にさ、マ夕゛オさん追っかけて遠くの海の方行って、タチの悪い火山灰ワカメ講に引っ掛かってどえらい借金こさえたことあったじゃん、」
「……あー、」
――あったね、そういうこともね、私は半目に頷いた。ぱっつんは構わず続けた。
「実はあのお金、知らない間にマ夕゛オさんがそっくり返しといてくれたんだ、」
――ああ見えて、意外とそういうとこあるんだよあの人ウフフ……☆
「……」
――やーめーてー、おながいだから本気でデレるのはやめてー、私は心底思ったが、敢えてのオニの仏心で口に出すのはガマンした。
それに私は知っているのだ、コトの真相ってヤツを、ぱっつんはマ夕゛オのおっちゃんがこつこつ働いてアレを返したものと思い込んでいるらしいが、何のことはない、マ夕゛オのおっちゃんはぱっつんが引っ掛かったのよりもっと悪徳高利貸しにウマイ話で乗せられてがっつり借金したヤツを軽い気持ちでワカメ講の弁済に当てたので、今もってガチガチに首が回らないのである。おそらく今回の失踪の背景にも件の事情が絡んでいるに違いあるまい。……まぁ、ぱっつんの男のろまんをブチ壊しにして恨みを買いたくないので黙っておくが。
「マ夕゛オさん、今頃どこにいるのかなぁ……」
窓の向こうに広がる空をぼんやり眺めてぱっつんが言った。
「……」
――さぁ、案外天井裏とかね、何の気なし、スコーンをくわえて私は目を上げた。
「!」
――うそぉ!! 張り付いた板の隙間から下界を覗くおっちゃんのグラサンと目が合った。おっちゃんが慌てて「しー!」のポーズを取った。無論ぱっつんに言えるはずもない。
「……そうだ!」
両手を叩いてぱっつんが花柄テーブルくろすの座席を立った。……それにしてもぱっつんはいつからお紅茶せっとに凝ったりいそいそプラムケーキこさえたりするようなキャラに変貌したのだろう、知らぬ間に人格までも変えてしまう、恋って本当にオソロシイ、私はつくづく認識を改めた。
「マ夕゛オさんが帰ってきたらすぐに焼いてあげられるように、ドライフルーツの仕込みしておかなくちゃ! 上等のラム酒使ってね!」
――ボクちょっと買い物行ってくる!
外したひらひらのフリルエプロンをソファの背に掛けて、ぱっつんはじむしょを飛び出していった。
「……」
私はおっちゃんに合図した。天井裏から埃とクモの巣まみれのマ夕゛オのおっちゃんがするする降りてきた。
「あい、」
ちょっと勿体なかったけど、私は銀トレイに載ったすこーんをぜんぶマ夕゛オのおっちゃんにくれてやった。
「あっ、りがとう!」
マ夕゛オのおっちゃんは咽び泣きながら貪るようにすこーんを残らず食い尽くした。いつまで隠れてるつもりか聞いておこうかと思ったけど、どうせほとぼり醒めるまでずーっとウチの天井裏にいるんだろうしまぁいっか、
「――、」
猫背を丸めてゴホゴホむせているおっちゃんに、私はすっかり冷めたすとろべりーちぃーを勧めた。
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作品名:かぐたん&ぱっつんのやみなべ★よろず帳 作家名:みっふー♪