かぐたん&ぱっつんのやみなべ★よろず帳
×月×日(7)
昨日の晩ゴハンのお礼にと、マ夕゛おじちゃんが朝からみそ汁を作ってくれた。
具はつるつるなめこと厚揚げとおねぎ、かつおとこんぶでおじちゃんがダシを取ったのに、なぜかほっこりお母さんの味がした。……なんでも、苦学生時代のオンボロ寮で賄いのオバちゃん助手のバイトやっててがっつり仕込まれたらしい。
(……。)
さいわい今日はまだじむしょに出て来ていないが、ぱっつんにこれを食べさせたらふぁざこんとまざこんとしすこん三重奏でこじらせてエライことになってしまう!
「おかわり!」
私はおじちゃんが大鍋にこさえたみそ汁をがむしゃらにしょうひした。すっかりギアが入ってしまったので、ナベいっぱいのみそ汁飲み尽くしてもまだ足りなくて、家中の飲み物片っ端から腹に入れて、銀ちゃんが楽しみにとっといた(らしい)いちごオレの素もぜ〜んぶ牛乳に溶かしてのんでしまった。銀ちゃんは大人げなくキレた。私はおなかいっぱいで頭に血が回っていなかったのでどーでもよかった。おじちゃんはおろおろしていた。「――わふっ、」サダちゃんがあくびした。
――キラーーーン☆
昨日晩ゴハンどきに銀ちゃんを丸呑みしたときに天パの中にでも絡まっていたのだろう、サダちゃんの奥歯にいちごオレの素のアルミ袋が一個引っ掛かっていた。
「!」
銀ちゃんはなりふり構わずサダちゃんの大口に自らトッ込んでいった。
――あぐ!!
世は未だ弱肉強食、銀ちゃんはサダちゃんの朝ゴハンになった。
「おはようございまーっす!」
と、玄関口に声がした。ぱっつんがいつもの時間よりだいぶ早めにじむしょにやってきたのだ。
「!!」
――おじちゃん早く! 私は茶わんと箸を持たせたマ夕゛おじちゃんを急いで天井裏に隠した。おじちゃんはまだ借金のカタがついていないのだ、ゆうべは辛抱堪らずうっかり出てきてしまったが、もうしばらくはぱっつんの前からも姿を消していなければならない。
「……マ夕゛オさんはっ?」
リビングダイニング兼応接室に入って来るなりきょろきょろあたりを見回して落ち着かない様子にぱっつんが訊ねた。良かった、姉ゴのふるぱわーでちゃんとアゴ嵌めてもらったんだ。昨日は晩ゴハンの間中しょっちゅうガクガク外れてたもんねっ☆
「さっ、さぁぁ?」
――朝起きたらもーいなかったアルよ、またどっかにトンズラこいたんじゃねいかな、本当困ったおじちゃんだねーっ、私は大げさに肩を竦めた。……ウン、少々やりすぎでバレバレだったかもしれない。
「……そう、」
ぱっつんは呟くとたすき掛けを解いた風呂敷包みをそっとてーぶるの隅に降ろした。それから、顔を上げて眼鏡の奥でにっこり笑った。
「でもね、僕はもう迷わないよ、待ってるのに飽きたら全力で追いかけるし、追い掛けるのに疲れたらしばらく休んでおとなしく待ってるし、……だからマ夕゛オさんも、好きなだけボクの前から逃げたり隠れたりしてて下さい、」
ぱっつんの声は明らかに天井裏に向かって語りかけていた。張り付いた埃まみれの板の上でグラサンの下に涙ダーダー流して、口元押さえて嗚咽を耐えているおじちゃんの情けない顔が目に浮かぶようだ。
「へぷっ!」
漏れ出るおじさんの啜り泣きをごまかすようにサダちゃんがくしゃみした。サダちゃんのヨダレで天パでろんでろんに吐き出された銀ちゃんは決死の形相でいちごオレの素をくわえていた。
(……。)
オトナって、……オトナになっても、子供とそう大差なくいろんなことに必死になるもんだ、私はおもった。
「……じゃあ僕、コレ片付けてくるね」
テーブルの上の空になった食器を重ねてぱっつんが流しに向かおうとした。
「――あっイイヨ、あとで私がやるから、」
――私がとーばんだしっ、私はぱっつんを引き留めようとした。おじちゃんの作ったみそ汁のナベがそのまんまだ、私が全部飲んでしまって中身は空だが、ぱっつんなら何か勘付いてしまうかもしれない。
「おいネ申楽、牛乳買いに行くぞ、」
そのとき、床からむくりと起き上がって銀ちゃんが言った。
「……えっ?」
私は降り向いた。ヨダレでろでろの天パをしゃびっと指先に跳ね上げて銀ちゃんが続けた。
「オマエがれいぞーこの分ぜんぶ飲んじまったんだろが! 俺は朝イチでいちごオレ飲まないと一日気分がすぐれない繊細なタイプなの!」
「はぁ……」
だったら銀ちゃん一人で行くか、最大限譲歩してじゃんけんでまけたほーとかにすればいいのに、私は思ったが、……と、腰を上げたサダちゃんが鼻先で私のおしりをぐいと押した。
「ホラ、そいつも散歩行きてぇってさ、」
サダちゃんを見て銀ちゃんがへにゃっと口を歪めて笑った。
「……。」
――なーんだ、そーいうコトか、
「?」
きょとんとしてるぱっつんを置いて玄関に駆け出す前に、必要以上の大声を張って私は言った。
「近所のコンビニだと割高になっちゃうからぁ、ちょっと遠出して駅前の24時間営業のスーパーでとくばいひん買ってくるねーーーっ!」
「わうっ!」
私とサダちゃんと銀ちゃんは、連れ立って朝のじむしょを出た。
……それから何日かして、ぱっつんに夕食とうばんが回ってきたとき、ぱっつんの作ったみそ汁は前と少しだし加減が変わっていて、こないだのおじちゃんのと同じ味がした。あの日以来おじちゃんは天井裏を出てったみたいで、流しの隅に積んどいた食料も手付かずのまんまだ。ぱっつんは何にも言わないし、銀ちゃんも何にも言わない。私も気が付かないふりをしていようかと思ったけど、「今日のみそ汁ダシ変えた?」聞いてみたら、「わかる?」つって、ぱっつんはちょっと嬉しそうだった。
+++
昨日の晩ゴハンのお礼にと、マ夕゛おじちゃんが朝からみそ汁を作ってくれた。
具はつるつるなめこと厚揚げとおねぎ、かつおとこんぶでおじちゃんがダシを取ったのに、なぜかほっこりお母さんの味がした。……なんでも、苦学生時代のオンボロ寮で賄いのオバちゃん助手のバイトやっててがっつり仕込まれたらしい。
(……。)
さいわい今日はまだじむしょに出て来ていないが、ぱっつんにこれを食べさせたらふぁざこんとまざこんとしすこん三重奏でこじらせてエライことになってしまう!
「おかわり!」
私はおじちゃんが大鍋にこさえたみそ汁をがむしゃらにしょうひした。すっかりギアが入ってしまったので、ナベいっぱいのみそ汁飲み尽くしてもまだ足りなくて、家中の飲み物片っ端から腹に入れて、銀ちゃんが楽しみにとっといた(らしい)いちごオレの素もぜ〜んぶ牛乳に溶かしてのんでしまった。銀ちゃんは大人げなくキレた。私はおなかいっぱいで頭に血が回っていなかったのでどーでもよかった。おじちゃんはおろおろしていた。「――わふっ、」サダちゃんがあくびした。
――キラーーーン☆
昨日晩ゴハンどきに銀ちゃんを丸呑みしたときに天パの中にでも絡まっていたのだろう、サダちゃんの奥歯にいちごオレの素のアルミ袋が一個引っ掛かっていた。
「!」
銀ちゃんはなりふり構わずサダちゃんの大口に自らトッ込んでいった。
――あぐ!!
世は未だ弱肉強食、銀ちゃんはサダちゃんの朝ゴハンになった。
「おはようございまーっす!」
と、玄関口に声がした。ぱっつんがいつもの時間よりだいぶ早めにじむしょにやってきたのだ。
「!!」
――おじちゃん早く! 私は茶わんと箸を持たせたマ夕゛おじちゃんを急いで天井裏に隠した。おじちゃんはまだ借金のカタがついていないのだ、ゆうべは辛抱堪らずうっかり出てきてしまったが、もうしばらくはぱっつんの前からも姿を消していなければならない。
「……マ夕゛オさんはっ?」
リビングダイニング兼応接室に入って来るなりきょろきょろあたりを見回して落ち着かない様子にぱっつんが訊ねた。良かった、姉ゴのふるぱわーでちゃんとアゴ嵌めてもらったんだ。昨日は晩ゴハンの間中しょっちゅうガクガク外れてたもんねっ☆
「さっ、さぁぁ?」
――朝起きたらもーいなかったアルよ、またどっかにトンズラこいたんじゃねいかな、本当困ったおじちゃんだねーっ、私は大げさに肩を竦めた。……ウン、少々やりすぎでバレバレだったかもしれない。
「……そう、」
ぱっつんは呟くとたすき掛けを解いた風呂敷包みをそっとてーぶるの隅に降ろした。それから、顔を上げて眼鏡の奥でにっこり笑った。
「でもね、僕はもう迷わないよ、待ってるのに飽きたら全力で追いかけるし、追い掛けるのに疲れたらしばらく休んでおとなしく待ってるし、……だからマ夕゛オさんも、好きなだけボクの前から逃げたり隠れたりしてて下さい、」
ぱっつんの声は明らかに天井裏に向かって語りかけていた。張り付いた埃まみれの板の上でグラサンの下に涙ダーダー流して、口元押さえて嗚咽を耐えているおじちゃんの情けない顔が目に浮かぶようだ。
「へぷっ!」
漏れ出るおじさんの啜り泣きをごまかすようにサダちゃんがくしゃみした。サダちゃんのヨダレで天パでろんでろんに吐き出された銀ちゃんは決死の形相でいちごオレの素をくわえていた。
(……。)
オトナって、……オトナになっても、子供とそう大差なくいろんなことに必死になるもんだ、私はおもった。
「……じゃあ僕、コレ片付けてくるね」
テーブルの上の空になった食器を重ねてぱっつんが流しに向かおうとした。
「――あっイイヨ、あとで私がやるから、」
――私がとーばんだしっ、私はぱっつんを引き留めようとした。おじちゃんの作ったみそ汁のナベがそのまんまだ、私が全部飲んでしまって中身は空だが、ぱっつんなら何か勘付いてしまうかもしれない。
「おいネ申楽、牛乳買いに行くぞ、」
そのとき、床からむくりと起き上がって銀ちゃんが言った。
「……えっ?」
私は降り向いた。ヨダレでろでろの天パをしゃびっと指先に跳ね上げて銀ちゃんが続けた。
「オマエがれいぞーこの分ぜんぶ飲んじまったんだろが! 俺は朝イチでいちごオレ飲まないと一日気分がすぐれない繊細なタイプなの!」
「はぁ……」
だったら銀ちゃん一人で行くか、最大限譲歩してじゃんけんでまけたほーとかにすればいいのに、私は思ったが、……と、腰を上げたサダちゃんが鼻先で私のおしりをぐいと押した。
「ホラ、そいつも散歩行きてぇってさ、」
サダちゃんを見て銀ちゃんがへにゃっと口を歪めて笑った。
「……。」
――なーんだ、そーいうコトか、
「?」
きょとんとしてるぱっつんを置いて玄関に駆け出す前に、必要以上の大声を張って私は言った。
「近所のコンビニだと割高になっちゃうからぁ、ちょっと遠出して駅前の24時間営業のスーパーでとくばいひん買ってくるねーーーっ!」
「わうっ!」
私とサダちゃんと銀ちゃんは、連れ立って朝のじむしょを出た。
……それから何日かして、ぱっつんに夕食とうばんが回ってきたとき、ぱっつんの作ったみそ汁は前と少しだし加減が変わっていて、こないだのおじちゃんのと同じ味がした。あの日以来おじちゃんは天井裏を出てったみたいで、流しの隅に積んどいた食料も手付かずのまんまだ。ぱっつんは何にも言わないし、銀ちゃんも何にも言わない。私も気が付かないふりをしていようかと思ったけど、「今日のみそ汁ダシ変えた?」聞いてみたら、「わかる?」つって、ぱっつんはちょっと嬉しそうだった。
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作品名:かぐたん&ぱっつんのやみなべ★よろず帳 作家名:みっふー♪