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うそつきハネムーン[情報更新]

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「いけない、伝え忘れてたわ」
 ハンガリーが立ち止まる。
 すわ重大発表かと一同が固唾を飲む。
 痛いほどの沈黙が訪れたのは一瞬の間だけだった。
「結婚のお知らせが上司から行ったと思うけど、この人を秘書としてレンタルする契約に伴う便宜上のものなの、ごめんね」
 にっこりと笑うハンガリーの横でプロイセンが頭をかく。
「えっえっ、プロイセン、便宜上ってどういうこと?」
 フランスが身を乗り出した。
「まあ、他国民に国の仕事を手伝わせるわけに行かないって言われたからなあ」
「私の仕事を手伝ってもらうために、一時的にうちの国民になってもらわないといけなくて。で、手っとり早く結婚届けを出したのよ」
 プロイセンの横でハンガリーが補足する。

「えっ」
 オーストリアが絶句し
「なんという・・・」
 ドイツが眉間を押さえ
「無事だったかー」
 スペインはほっと息を吐いた。

 極限まで高まった熱気は、行き場を失った代償として各国家のやる気を根こそぎ蒸発させて去って行き、いつもはまじめに会議に臨む面々がぐったりと会議テーブルにもたれかかって時間を過ごす羽目になった。結果、会議はハンガリーのめざましい活躍で終了と相成ったのであった。その資料はプロイセンがデータを集め、ハンガリーが分析し、プロイセンがまとめ直したものだという。夫婦の共同作業にしては味も素っ気もない作業分担であった。

「私は、どうして期待してしまったんでしょうか。恋愛のような美しく繊細な感情について、あの二人がどれだけ無頓着か承知していたにも関わらず・・・」
 ハンガリーとプロイセンを除く元枢軸国がほぼ顔をそろえた休憩室で、オーストリアはほうじ茶をたたえた白磁のティーカップを手に、たちの悪い酔っぱらいのようにぐちぐちとこぼしている。
「いえ、期待した理由など簡単なものなのです。私はずっと引け目を感じていたんですよ、わかりますかドイツ!ドイツ!」
「ねえねえドイツードイツー、そっちのマカロン取ってー」
「うむ」
 ドイツは慣れた風に一言相づちを打つと、マカロンの乗った皿をイタリアに押しやった。色とりどりのマカロンはパステルカラーでハンガリー国旗の色に染められている。大げさに祝われたくもないだろうとフランスが持ってきた手作りの逸品である。結局誰も手をつける元気がないまま解散してしまったので、遅刻したおかげであの脱力を知らないイタリアが一人せっせと胃袋に収めていた。
「強固な友愛で結ばれたあの二人の絆を引き裂いたのは己の手ではないかと、私は何百年も悩んだんです、悩んだんですよドイツ! なのにあの人たちったら本当に喧嘩も援助も何もかもの行動が本気でしかなくて、間に誰がいようともまったく関係に影響はない。
 すなわち、細かいことは気にしない精神で、その場その場でありったけの感情をぶつけ合っているだけなのです。脊髄反射です。動物も同然です。むしろ恐竜です。案じた分だけ損をするといい加減分かっていたんですよドイツ! 聞いていますかドイツ!」
「ねえねえドイツ、しばらくプロイセンがハンガリーさんち行っちゃってもしょうがない、って思う?」
「うむ」
 ドイツはまたしても一言相づちを返すに留める。日本は感心した。余計なことを言わずに双方に対応する相づちを入れるというドイツの対処は実に見事であった。しかし、無駄口を叩かない彼の性格がもしやこの環境ではぐくまれたものなのではないかと思うと、それはそれで不憫でもある。
「わかっていたからこそ、今度こそは自分たちの気持ちを見つめなおしてきちんと決着をつけたのかと思ったと言うのに・・・」
「ヴェー・・・そんな一筋縄でなんとかできるなら、もっと前に決着ついてそうだよ、オーストリアさん・・・」
「・・・うむ・・・」
 ドイツの声色がワントーン沈んだバリトンになった。
「俺も、期待しなかったわけではないのだが、まあ、そう言われてみれば確かにあの二人は、『忙しいから手伝いが欲しい』『じゃあ暇だし手伝う』『他国民はだめって言われたから結婚しとこうか』くらいの気軽さで結婚くらいはやりそうだ・・・」
 男女の機微には疎いドイツであっても、兄とハンガリーの仲の良さは察している。自分より遥かに大人であるはずの彼らが、子供のようにじゃれ合うのが若干気恥ずかしくあったりもしたせいで、もしかしたら二人は恋愛関係にあるのかもしれないと、ことさらに思いこんでいたのだ。
「俺はなんという邪推を・・・」
「私ですらだまされたのです、ドイツが気に病むことではありません・・・」
「日本、どうしよう、ドイツとオーストリアさんが暗いよ!」
 それぞれにカップを手にしんみりと口を閉ざすドイツとオーストリアを前に、日本とイタリアは顔を見合わせた。
 えーと、と話を振られた日本は顎に手を当てて考え込む。
 正直、オーストリアやドイツが知っているほど、プロイセンとハンガリーの関係に詳しいわけではないので、現状与えられている情報から彼らの慰めになるものを引き出さなくてはならない。
 心の中でいくつかの可能性を吟味し、日本ははたと手を打つ。
「それでも、ご結婚なさったということは、同居なさってるんでしょう? 仲が悪いというわけでもないでしょうし、言い換えればこれから発展の可能性を多分に含んでいるのでは」
 オーストリアとドイツが跳ね上がるように顔を日本に向けた。
「ああ、そっかあ、一緒の家で一緒にご飯食べたり寝たりするんだね」
 いいなあ、とイタリアがうらやましそうな顔をする。
 結婚した覚えもないのに、しょっちゅうイタリアにベッドを共にされるドイツが、苦虫を噛みつぶしたような顔になる。

「残念ながらその可能性は低いのである」
 声と共に休憩室のドアが押し開けられた。勝手知ったる風に堂々と踏み込んできたスイスが、いつもはライフルを携えているはずの手に持ってきたラップトップPCをテーブルに置くと画面を一同に向けて開いた。
「これは・・・ハンガリーの家ではありませんか」
「はい。先日お茶にうかがった時の写真です」
 スイスの後ろから楚々と入室したリヒテンシュタインが、ハンガリーの簡素な庭付き一戸建ての家を指さす。
「先ほどお隣の方と連絡が取れまして、ここ最近大きな改装などをされた様子はないとのことでした。プロイセンさんとおぼしき男性は週に1、2度いらっしゃっていたようですが、日中で引き上げたとのこと。また、この一ヶ月ほど、客間の明かりが夜間についていた覚えもないそうです」
 リヒテンシュタインは白く細い指をまっすぐにのばして、画面上の家の窓を指さす。
「よって、ハンガリーさんのお宅に泊まりの来客はしばらくない。また、現在同居している方がいる可能性もきわめて低いようですとお知らせいたします」
「じ、情報収集してたの!?」
 会議の終了からさほど時間がたっているわけでもないというのに、すでに現場から情報を収集して解析しているとは。兄妹の本気にたじろぐイタリアをよそに、スイスは今度は地図を広げる。
「ドイツ、貴様は兄の書斎から運び出された荷物がどこへ届いたか知っているか?」