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うそつきハネムーン[情報更新]

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「い、いや・・・。というか、先日兄貴が家で働き回っていたのは模様替えか大掃除だと思っていたのだが、引っ越して・・・いたのか・・・?」
「うむ、生活用品はハンガリーで揃えるのであろう。資料と書物とPCなどが引っ越し先に運び込まれている」
 地図は読めても道に迷うという特異な属性を持つ、永遠の迷宮の囚われ人オーストリアがメガネを押さえて眉間にしわを寄せた。
「この、印がついている場所はハンガリーの国会議事堂なのでは・・・?」
「その通りである。プロイセンは、国会議事堂の資料室の一角に古いソファを持ち込んでいる。周辺にはコインランドリー他、有料の生活サービスが充実しており外食にも不自由はない。何よりハンガリーの仕事関連の情報が最も速く集まる。
 また、数日前から深夜・早朝に出入りする銀髪赤目の青年が守衛に目撃されている。よってプロイセンはここで寝泊まりしていると推測される」
 スイスが眼光鋭く言い切った。

「な」
「なんですと・・・!?」
 一同が息を飲む。
 一つ屋根の下でハンガリーの仕事を手伝って、代わりにちょっと飯くらいおごれよ、とかそんなほほえましいやりとりを交わしながら働いているのではないか、という憶測を根本から崩す徹底した他人っぷり。
 ここに来て、ハンガリーの情の厚さに甘えたプロイセンがいつの間にか距離を縮めて二人の絆が深まり以下略・・・という甘い展開のフラグが完膚なきまでにへし折られた。
「仮面夫婦、というわけですね・・・」
 さしもの日本も、この状況からは恋愛に至るフラグを拾えない。
 何はともあれ、ロマンスに結びつきそうなシチュエーションがすべて封じられている。しかも、当の二人が「形だけの結婚」を他人が見たらどう思うか、という推理を働かせて丁寧に可能性の芽を摘んでいるとも取れる。
 これは、彼らからの「誤解するな」というサインに他ならない。
「まったくもって、仮面夫婦もいいところだ。一般市民に広く告知されないおかげで騒ぎになってはいないのだけが救いだが、いいように振り回されたのである」
 地図を丸めて筒に入れ、ラップトップを畳んで小脇に抱えるとスイスが踵をつけてきゅっとターンを決める。
「現状報告は以上である。我が輩たちは帰還する!」
「はい、お兄さま」
 スイスと同時に軍隊式の敬礼を決めたリヒテンシュタインが、早足に後を追う。

「・・・」
「・・・」
「帰りましょうか」
 深いため息をつきながら、どっと疲労がこみ上げた様子のオーストリアが立ち上がる。
「今日は疲れました」
「心中お察しします。どこか寄って食事でもして帰りましょうか・・・」
「ヴェー、おれ、ドイツのクーヘンが食べたいなー」
「ああ・・・結婚祝いにと思って、ずいぶん作りすぎてしまったので、そうしてくれるとありがたい」
 ドイツも椅子を引いて立つと、湯呑みを手早く洗って洗いかごに伏せた。
 日本が給湯器の電源を落とし、オーストリアが窓を閉め、カーテンを閉め、イタリアが机と椅子を元の位置に戻す。
 広い豪華な控え室になじめなかった日本が、使われていなかった資料室の隅を借りて庶民風の休憩所を作ったのが由来である休憩室はあっという間に静まり返った。