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君に言祝ぐ日

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「単純な話だよ」
 
 そう言って臨也は帝人を招いた。もう何度か訪れた臨也の新宿の事務所は相変わらず広く、何度訪れても慣れない緊張感を伴う。まるで借りてきた猫のようだねと笑いながらソファを勧めた臨也は、自らも隣に腰を下ろして切りだした。
「単純、ですか?」
「うん。まあねー。俺もれっきとした人間だからさ。ああいうことを楽しむ時間が欲しいんだよね」
 笑う臨也の言葉に僅かに首を傾げる。ああいうことというのはやはり先ほどのお茶だろう。だからそれを誰か別の人と行けば、と思うのだがそこではたと我に返る。
 臨也に、そんな相手がいるのだろうか。
 今更のように思い当たった事実に内心焦る。どうしよう、確実に二人くらいしか思い当たらない。自他共に悪友と言えるねとの言葉を貰っている新羅はセルティ以外に興味を持たないせいで付き合わないだろうし、もう一人それに付き合ってくれそうな門田は断固として拒否するだろう。
 うわどうしよう、今更のように哀れに思えてきた。
 事実に思わず臨也に向ける視線が生温いものに変化する。そして人間観察に長けた情報屋が対する相手の変化を感じ取らないわけがない。ちょ、待って!とあからさまに焦った。
「待ってよ帝人くん! 君絶対何か勘違い出してるだろ!」
「え、いやそんなことはないですよ? そうですか、一緒にお茶を楽しむ友人が欲しかったんですね。ええ、嫌がらせのようでしたけどこのくらいのことならいつでも付き合いますよ」
「それは嬉しいけど待った前半! やっぱり君盛大に誤解してるよ!」
「だって誤解も何もそのまんまじゃないですか」
 違うんですか、と見返せば苦虫を噛み潰したような顔で「違うよ」と不機嫌に吐き捨てた。だったらなんだというのだろう。
「いくら俺でもそこまで悪趣味じゃないさ」
「……ええと、自覚あったんですか?」
「君が俺をどう考えているか一度じっくりと話し合うべきかな。まあそれは置いておいて、なんで俺があんなカップルや女の子たちが屯する場所にわざわざ君を連れていったと思うの」
「それこそ、僕の反応が見たかったからじゃないんですか?」
 常日頃から「俺は人を愛している!人、ラブ!!」などと叫ぶ臨也ならばその位の悪趣味なことはするだろうという判断に、彼は深々と溜息を吐いた。ありえない。呟かれた言葉にこっちがありえないと即座に帝人も呟いた。ただし心で。
「帝人くんの予想は外れてはいないよ。うん、でもそれだけじゃない」
「……他に何かある、と?」
「あそこのお茶とケーキ、美味しかっただろう?」
「ええ、とても」
 帝人の一ヶ月の食費からするとあまり行きたくない類の店だったが、それでも値段に見合った味がした。ケーキもお茶もとてもおいしかった。頷けば、だろう?と臨也が苦笑する。
「埋め合わせになるかなぁって思ったんだよ。君の今年の誕生日は散々だったからね。ああ、気にしなくていいよ。別に代金請求しようなんては思ってないから」
「え、あの、それじゃまさか」
 祝ってくれようと、したのだろうか。改めて臨也の意図を思って彼を見遣れば頬杖をついて苦笑い。さらりと頬にかかる髪が妙に艶っぽく見え、一瞬鼓動が跳ねる。
「快気祝いも兼ねてるって言っただろ? 改めておめでとう」
「……ありがとうございます」
「本当はホールケーキでもって思ったんだけどね、気にするかと思って」
「十分ですよ! ありがとうございます、臨也さん」
 穏やかに微笑む臨也に、やんわりと緩められた彼の眦に、どこか気恥ずかしさと嬉しさがこみ上げる。誰かに誕生日を面と向かって祝ってもらうのはこれが初かもしれない。
 兄がいたらこんな感じなのかなと思いつつ、帝人は素直に礼を言う。正直店でのやり取りは恥ずかしかったが、喉元過ぎれば熱さ忘れる。好意そのものは嬉しかったんだし、と無理やり見なかったことにする。もちろん何か騒動が起これば火消しに協力してもらおうと打算しながら。
 互いににこにこと微笑みあいながらそういえば、と帝人は思い至る。
(ここまでしてもらったんだから、僕も何か返さなくちゃ悪いよね)
 帝人の中では誕生日などのイベントごとを祝ってもらったならば、自分もまた何かお返しをするべきだという概念がある。そうは言っても一学生にすぎない帝人と社会人として世に出ており、後ろ暗いながらも稼ぎはいい臨也とでは経済力に差がありすぎて何が出来るとも思わないのだが、こういうのは気持ちだ、と内心で拳を握りしめる。
「そういえば臨也さんって、誕生日はいつなんですか?」
「ん? 何、俺の年齢に興味があるの? 君ぐらいの子から見れば十分おじさんに見えるのかなぁ、そういえば来良の子からもおっさんって言われたし」
「……随分前の事を良くもまあ……と、ともあれ、年齢は聞きませんから誕生日! 誕生日だけ教えてください」
「んー……教えてもいいけど本当にいいの?」
「何勿体ぶるんですか」
 ニヤニヤとしたどこぞの童話の猫めいた笑みを浮かべる臨也に嘆息をつけば、「帝人くんがいいならいいけどね、」と前置きした後、こちらの顔を覗き込むようにして臨也は言い放つ。
「今日」
「は?」
「聞こえなかった? きょう。今日だよ。五月四日」
「うそでしょう!!」
「あはは残念ながら本当ー。なんなら確認してもいいよ」
「免許証もパスポートも保険証も偽造できるのにそんなもの信用に足ると思いますか!」
「……君ってどういう考え方してんの? いくらなんでも真っ当な身分証の一つくらい持ってるから」
 そう言ってコートのポケットから財布を抜きだした臨也は中から一枚のカードを抜き取り、事もなげに放る。上手い具合に帝人の手の中へと落ちてきた証明書にはきっちりと折原臨也の個人情報が羅列されていた。誕生日、五月四日と明記されて。
「……偽造じゃないんですか」
「まさか戸籍謄本まで持ってこいとは言わないでね。まあ、信じる信じないは君の自由だけど本人の申告、他者の証言、書類上での扱いの上では俺の誕生日は五月四日だよ」
「…………嘘でしょう」
 愕然としながら帝人は手の中のカードを見遣る。何度見ても変わらない内容は雄弁に事実を告げる。口では嘘だと言いつつも、頭では冷静に事実を見ていた。
 臨也の誕生日が五月四日なのは本当だろう。それが今日だと言うことも。言わなかったのは訊かれなかったからだとわかっているし、その点で臨也に非は無い。
 だが何故だと頭は思う。なんだってこうタイミングが悪いんだと。もしかしたら臨也はこれも見計らっていたのかもしれないが、それにしても最悪すぎる。
 自分ばっかり祝ってもらって。先の出来事にしても臨也は謝るが、あれは帝人にも非がある。どちらかと言えば迷惑を被ったのは臨也だろう。あの場に帝人がいなければ彼はもっとスマートに逃げられたはずなのだ。
 与えられてばかりで、何も返せていない。ならばせめて誕生日くらい祝ってあげようと思ったのに。
 意を決して帝人は俯いていた顔を上げ、臨也を見遣る。ぐっと表情を引き締める帝人を臨也は面白そうに見ていた。
「臨也さん、僕に何かして欲しいこと無いですか」
「ん? もしかしてさっきの事何か気にしてる?」
作品名:君に言祝ぐ日 作家名:ひな