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水の器 鋼の翼2

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 ジャックのめくれ上がった袖から見えた、血の色の痣。兄の持つ痣とよく似たそれ。赤い翼の紋章が、子どもの白い肌にくっきりと浮かび上がっていた。
 騒ぎを聞きつけたのか、家の中から一人の若い女性がフライパンを持って駆けてきた。教会のシスター風の彼女は、レクスを目ざとく見つけるや否や、フライパンを振り上げてがんがんに怒鳴りたてた。
「ちょっとあんた! うちの子に何かしたら、ただじゃおかないよ!」
 弾かれたように、レクスは彼女たちに背を向けてその場から走り去った。背後から聞こえるジャックの得意げな声と、子どもたちを叱り飛ばす女性の声も、レクスの耳を通り過ぎるだけだ。

『レクス、いずれシグナーという者たちが現れる』
 シグナー。赤き竜に選ばれ、腕に竜の痣を宿す者。ルドガーは、邪神の意思に飲み込まれる寸前、レクスに腕と共に一つの使命を託した。「シグナーを集め、ルドガーを倒す」という、重大な使命を。
 シグナーの一人が見つかった。それは、レクスにとって喜ばしいことのはずだった。だが、見つかったシグナーはあまりにも幼すぎた。あの外見からすると、恐らく、彼がこの世に生まれ落ちてから二、三年も経っていないはずだ。あの子どもとルドガーとは、あまりに年齢がかけ離れ過ぎていた。
 
――兄さん。あなたは生まれてくるのが早過ぎたんだ。

 覆しようのない事実が、容赦なくレクスを打ちのめした。

作品名:水の器 鋼の翼2 作家名:うるら