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だぶるおー 天上国 王妃の日常3

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 妖精王は、まだ若いので体力が有り余っている。周囲の結界を作るぐらいでは、疲れなど感じない。その体力を存分に使って発散させているので、ここのところの陛下は、爆発しそうな危険もなく健やかに過ごしている。その代わり、その有り余る体力を叩きつけられているニールは、ぐだぐだになっているのだが。そこは、まあ、みんな、スルーだ。妖精王と王妃の関係としては正しいとは言えるからだ。それに先日のユニオンでのニール行方不明事件もあったから、しばらくは外出を控えさせたいとの意向もある。
「もう、絶対、女抱けねぇーよ。」
「当たり前だ、バカモノ。浮気なんぞ発覚してみろ、それこそ、陛下が爆発するぞ。」
 刹那の魔法力は、先代と遜色ないほど強大だ。そんなものが爆発したら、王国どころか周辺も破壊され尽くす。まだ、自制心に問題がある年頃だから、それも心配されている。ニールも、それは解っているから、夜の営みに文句は言わなかったのだが、毎晩毎晩、激しすぎるので根を上げた。どこで、そんなテクニックを学んできたんだよっっ、と、ツッコミたいくらいに刹那のやることは巧みだった。途中から、ニールはわけがわからないなんてことになっている。養い子に好き放題されているとかいうレベルではない。ニールの男としてのプライドも、もうどうでもいい。ただ、こりゃ溺れておかしくなりそうで怖いというレベルになっているのが、ニールのキレた原因だ。
「このままだと、俺、セックス中毒とかなりそうなんだけど? カティーねーさん。」
「なってくれてもかまわんぞ。それなら、おまえも長いこと、陛下の傍を離れられんようになるから、好都合だ。」
「鬼。」
「はははは・・・誉め言葉と受け取っておこう。それほど気持ちいいなら、よかったじゃないか。」
「いいわけないだろっっ。」
 説教されているニールは、余裕のあるカティーの態度に、本気で腹を立てているのだが、それでもカティーは動じない。多少、同情したい部分はあるのだが、王国の維持に関しては、そこは目を瞑るしかない。刹那が、ニールしかいらないと言うのだから、それはどうあっても、どうにもならない部分だからだ。
「ちゃんと謝れよ? ニール。陛下は、ああ見えても落ち込んでるんだぞ。」
 実は、王妃にキレられて刹那は落ち込んでいる。見た目には、何も変らないが溜め息が多くなった。それに、様子を見たいのに、ニールが怒っているから、寝室にも戻れないでいる。
「わかってるよ。・・・でもさ。」
「だから、それはそれでいいだろ? 生涯の伴侶が相手なんだから、何も問題はない。おまえ、まだ、陛下に女をあてがって、とか、小賢しいことを企んでいるなら、それは無理だからな。」
「うっ、痛いところを。」
「私とうちの亭主の間にも子はないが、それでも私は幸せだと思っているんだがな? 確かに、先代のディランディ家の家庭というのは幸せなものだったが、あれと同じものを作る必要はないはずだ。男女の夫婦であっても、子がないものもいる。マリナ姫なんか、伴侶は面倒だと言う。アレルヤとティエリアも、子はできないだろうが幸せそうだろう? それぞれに幸せな形はあるんじゃないのか? ニール。おまえの望んでいる陛下の幸せは、おまえが望んでいるだけで、陛下が望んでいるわけじゃない。無理強いして作り上げたものは、歪みがある。陛下が、本当に望むものを、おまえが協力して作ってやるほうがいいと思う。時間はかかるだろうが、それで作り上げたものののほうが、おまえたちにはいいんじゃないか? 」
「俺の望む幸せは?」
「陛下が幸せだと笑ったら、おまえも幸せだと思うだろ? 」
「・・・うん・・・」
「なら、それで解決だ。いいか? ニール。陛下が毎晩毎晩、なぜ攻め立てているのか、よく考えてみろ。それが解決したら、落ち着くはずだ。」
「やりたいからだろ? 」
「それだけじゃないな。」
 まだ、ニールは、それに気付いていない。カティーやスメラギは、それに気付いている。だから、説教というか助言がてらに顔を出した。そこまでしないと満足しないのは、身体しか明け渡していないからだ。対等の夫婦という形で、ニールが受け入れていないから、こうなっているのだ。だが、そこまで明け透けに説明するものではないから、ヒントだけ与えた。

 ちょうど廊下を近寄る気配があるので、扉を開けるために、カティーは立ち上がった。小さい頃から優秀だったニールの弱点は、考えの転換ができないところだ。頑固というか頭か硬いというか、ひとつのことを、こうだと思い込むと、それから転換できないところがある。刹那は養い子だと思い込んでいるから、伴侶になったと思っていないのが、この痴話喧嘩の根本的な原因でもあるのだ。

 控えの間から廊下に通じる扉を開くと、フェルトがイチゴをたくさん盛り込んだ籠を持って立っていた。フェルトの足元には、ハロがわらわらと湧いている。
「おやつか? フェルト。」
「うん、摘み立てのイチゴ。」
「これは美味しそうだ。ニールも喜ぶ。」
 入りなさい、と、カティーが招き入れる。フェルトも、ディランディーさんちの養い子だ。ライルが、見つけて連れて来た。なぜか、ライルではなくニールに懐いているので、お見舞いに来た。普段は、城の雑用をしてくれているので、ニールとも顔を合わせられていたのだが、ここんところ、軟禁されていて寂しくなったらしい。
「フェルト、いらっしゃい。」
 奥の間に入ると、ニールが声をかけてくれる。籠から零れないように、慎重に歩いてニールに中身を見せてくれる。
「イチゴ。」
「うん、よく熟れてるな。一緒に食べようか? 」
「うん。」
「カティーねーさん、ねーさんもどう? 美味そうだぜ? 」
「ああ、相伴しよう。」
 先ほどまでの燻ってやさぐれていた雰囲気はなくなった。ニールが、そういう顔を見せるのは、カティーたちぐらいだ。フェルトに心配されないように、顔は取り繕っている。実は、刹那にも見せていない。キレたのも、本当に久しぶりだった。だから、刹那は落ち込んでいる。大概に甘やかされている刹那にしたら、キレて怒鳴られたら悲しくなる。それも、わかって欲しいと思っている相手が、わからないままに怒鳴るのだから、落ち込みも酷くなる。
「刹那、寂しそうだよ? 喧嘩した? 」
 イチゴを摘みながら、フェルトが尋ねる。どうも、刹那の様子が暗いし、当人も叱られた、と、言うから、それも気になっていたらしい。
「うん、ちょっとな。・・・フェルト、刹那に伝言してくれるか? 」
「いいよ。」
「部屋に帰って来いって。」
「うん。」
 自分のほうから折れないと、刹那は絶対に戻ってこない。そういう性格だから、ニールから水を向けるしかないのも承知している。

 しばらく、三人で世間話をしていると、コーラサワーがやってきた。午後から予定が入っているので迎えに来たと、ニールに挨拶する。
「大丈夫か? ニール。」
「なんとかな。」
「しばらくは大人しくしとけ。騒ぎばっかじゃ、陛下だっておちおちしてられないだろ? 」
「はいはい。午後から、どこか出るのか? 」
「ああ、北のラグランジュ3から手伝いを頼まれたんだ。風か強すぎて、牧草が纏められないんだとさ。」