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だぶるおー 天上国 王妃の日常3

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 点在する王国の村には、魔法力のあるものが暮らしているが、力はそれほど強いものは居ない。だから、手に負えない事があると、天上の城に依頼が舞い込む。それも、城の住人が手分けして手伝いに向かうことになっている。今は、刈り入れた牧草をサイロに詰め込む時期なのだが、大風が続いて詰め込みが遅れているので、城へ依頼が入ったのだ。
「カティー、食事して出かけましょう。荷物は準備しています。」
 で、亭主のコーラサワーは、とても甲斐甲斐しく奥様の世話をする。カティーが、外の世界へ視察に出ていて知り合ったのだが、一目惚れしてついてきたという変り種だ。だから、コーラサワーには魔法力はない。ただの人間だ。そして、鉄の女という徒名のカティが、どこを気に入っているのか、よくわからないが、ここも鴛鴦夫婦ではある。いつも、ふたり一緒に行動している。
「フェルト、これ、少し貰ってもいいか?」
 まだ籠に、たくさん残っているイチゴをカティーが指差した。うん、と、フェルトが頷くので、ひとつ摘んで、コーラサワーの口に放り込む。
「うわっ甘っっ。」
「食後のデザートに少し貰っていこう。おまえ、好きだったろ。」
「覚えてくれてたんですね? 感激っすっっ、カティ。」
「いや、俺は、もう十分だから、籠ごと持って行け。いいだろ? フェルト。」
 そういや、こいつ、甘いものが好きだったっけ、と、ニールも思い出して、フェルトに頼む。そんなに食べられないから、一掴みだけ残して、籠を渡してもらった。
「ありがとう、フェルト。」
「いいよ。」
「では、いってくる。ニール、わかったな? 」
「はいはい。」
 フェルトとふたりして手を振って見送ると、扉は静かに閉められた。それぞれに幸せの形はあるだろう、というカティの言葉の意味はわかる。わかるのだが、刹那が望むものは、よくわからない。

・・・・聞いてみるしかないよな?・・・・・

 無口で無愛想な子供なので、思っていることなんてニールでもわからない。こういう場合は、問うしか方法はない。
「フェルト、シップ換えてくれるか? 」
 とりあえず、動けるようになったので、技術院のほうへ顔を出すことにした。着替えも手伝ってもらおうと思ったら、動いたらダメだ、と、それには応じてくれない。
「もう痛くないんだ。それに、仕事もあるからな。」
 宥めるようにニールが言うのだが、フェルトは、口をへの字にして睨んでいる。ここにも、頑固者がいたか、と、苦笑する。
「大丈夫だよ。」
「・・あのね、ニール。」
「ん? 」
「王妃がイヤなら、あたしと逃げよう。」
「え? 」
「ニール、刹那の王妃がイヤだから怒ったんでしょ? それなら、逃げよう。あたしが一緒に行く。」
 唐突に、フェルトはそう言って、寝巻きの腕を掴む。刹那が王妃に指名した時も、「仮に。」 と、言い置いたし、長いこと、刹那の夜の相手も拒んでいた。とうとう、それは受けたらしいが、ニールは、それから、あまり元気ではない。それらから鑑みると、本当はイヤなんじゃないのか、と、いう結論にフェルトは達した。フェルトにしてみたら大好きなニールが、いやいや、王妃をやっているのはイヤだ。
 しかし、ニールのほうは、驚いた顔をして、それから微笑んで、フェルトの頭を撫でた。
「おまえさんにまで心配かけるなんて、俺は保護者として失格だな。・・・・ごめんな、フェルト。イヤじゃないんだ。刹那の、妖精王の役に立つのは、俺には嬉しいことなんだ。・・・ただ、まあ、限度ってものがあって、度を越えてるから怒っただけなんだよ。ごめんな。」
「本当に? 」
「ああ。」
「なら、いい。でも、仕事はダメ。」
「どうしてもダメか? 」
「ダメ。」
「わかったよ。じゃあ、刹那に伝言してきてくれ。部屋で待ってるから。」
「うん。ハロ、ニールの見張りをしていて。外へ出さないでね。」
 フェルトは自分のハロに命じて刹那のところへ足を進めた。だが、途中で立ち止まって、ふっと自嘲の笑みを漏らした。ニールの部屋からは随分と離れた場所だ。そこからは、眼下に森が見えている。

・・・・本気で言ったのに・・・・

 フェルトは刹那より前に、こちらにやってきた。刹那と同じように両親を戦争で亡くしていたから、ディランディ家に迎えてもらった。その頃から、フェルトはライルよりニールが大好きだったのだ。お嫁さんになりたいという方向で。だが、ニールが刹那を召還してきて、事態は一変してしまった。よりにもよって、刹那はニールを伴侶に選んでしまったからだ。妖精王が選んだら撤廃はできない。相手が、どう拒もうと拒否権はない。
 決まってから、こっそりと刹那と対峙して罵った。先にあたしが好きだったのに横取りしたと。刹那は、黙ってそれを聞いて、深く頭を下げた。
「あれだけは譲れない。他のものは、欲しいものがあればくれてやる。あれだけは諦めてくれ。」
 一介の城の住人に妖精王になった刹那が詫びてくれた。大好きなものを取り上げられたことに腹を立てていたから、フェルトは、ぽかぽかと刹那を叩いたが、それも受けてくれた。だから、諦めたのだ。

・・・・そして、あたしが好きな人は、自分に向けられる好意には気付かないんだ。困った人だな。・・・・・・

 フェルトが本気で告げても、ただの「好き。」 と、だけ感じてくれる人なのだ。だから、さっきの駆け落ち宣言も、そういう意味で捉えてくれていない。ただ、心配して逃げよう、と、言ったと思われている。悲しいようなじれったい気持ちにさせられる。ニールは自分に向けられる感情には疎い。だから、刹那が、どんなに想っても、フェルトと似たようなことになっているのだろう。これでは、ニールも刹那も幸せじゃない。ひいては、それを見せられる自分も不幸だ。だから、刹那に、それはぶつけるつもりだ。


「ニールから伝言。『戻って来なさい。』って。」
 執務室で書類仕事をしていた刹那の前に立って、先に伝言は告げた。刹那以外に人が居ないから、本題に入る。
「刹那、ニールが楽しそうじゃない。ちゃんとして。できないなら返して。」
 その言葉に、刹那も顔を上げた。
「わかっている。今、鋭意努力中だ。」
 それだけをフェルトの目を見て言うと、また書類に目を落とす。執政は任せきりと言っても、細々とした仕事はある。それをこなしているから、出て行け、という態度だ。
「ニールはね、あたしと駆け落ちしてくれないんだって。さっき、逃げようって言ったら、『刹那の役に立つことができるのは嬉しいことなんだ。』って言った。それなら、もうちょっと楽しそうにして欲しい。」
「そうか。逃げるつもりはないのか。」
「あれば、逃げてるよ。何をしたのか知らないけど、あんまりニールを苛めないで。」
「すまない。もう苛めない。・・・フェルトならと思っていた。」
 フェルトとならニールは逃げるのかもしれない、と、刹那は思っていた。なんせ、フェルトもニールが好きだったからだ。そして、ニールもまんざらではないだろうと疑っていたのだが、断られたと聞いて、ほっとしている。
「バカッッ、ニールは、いつも刹那が一番じゃないっっ。それなのに、まだ我侭言うつもりなの? 」
「はあ? 」