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ところにより吹雪になるでしょう

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 チャイムとともに後輩はがばりと頭を上げ、辺りを見回した。よっぽど熟睡していたのか顔には服のしわが跡になっている。次の授業のある教室へ移動しようと席を立つと、後輩は今日はもう講義がなく掲示板を見てから帰るというので栄口もついでに同行することにした。
 終わりのチャイムが鳴った後の掲示板前は人で溢れかえり、肝心の張り紙を確かめることもままならない。人だかりから少し離れたところで栄口と後輩はその混雑ぶりに唖然と立ち尽くした。
「先輩見えますか?」
「ムリムリ」
「肩車でもすれば見えるかも」
「あはは」
 笑いながらを見上げると、向かいの後輩の顔がなぜか引きつっていた。後ろに何かあるのだろうか、栄口が振り向くとそこには元彼女が怒りを隠さず立っていた。
「……これ、借りてたCDとか」
 栄口にしてみれば別に貸していたままでもよかったのだが、律儀に返してくれるあたり彼女の育ちの良さが感じられる。紙袋を受け取ったら相手は少し安堵したような表情を見せ、つい栄口はいつもの癖で「どうも」と言ってしまった。
 みるみるうちに怒気が戻り、「どうもってなんなのよ」という震えた声がした。パシンという快音が響き、栄口は瞬時に何が起きたのか理解できなかった。頬がひりひりと熱く、目の前では元彼女が振るった手もそのままでぼろぼろと涙をこぼしていた。固まってしまった空気を壊して後輩が栄口と彼女の間へ割って入り、「お前何やってんだよ!」と声を荒げるまで自分が叩かれたことに気づけなかった。
 くるりと背を返し走り出した彼女を慌てて後輩は追いかけていった。こんな公衆の面前でドラマのような出来事が降りかかってきたのは初めてだ。
 栄口がふと我に返り顔を上げると、周りの聴衆たちは一斉に目を逸らした。どうやら今までいい見世物になっていたらしい。真昼間からあんな修羅場を見せたのだから当然なのだが、掲示板へと寄る栄口を露骨に避けられると本当に居たたまれない。自分に関わる告知がないことを確認した栄口がさっさと退散しようとすると、横にいた男から申し訳なさそうに話しかけられた。
「あの、口切れてるみたいなんですけど」
 まさか、と右手で口を拭うと指に赤い液体がぬらりと付いてきた。かけるべき礼も投げやりに栄口は次の教室へと逃げた。