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ところにより吹雪になるでしょう

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 尚も無言の水谷へ、阿部は諦めるかのように深く息を吐く。求めている答えは得られないと判断したのだろう、不機嫌な顔で放つ言葉は遠慮がないかわりにやたらと棘があった。
「栄口がいればなー……」
「……は? なんでそこで栄口の名前が出てくるの?」
「だってお前あいつとつるんでた頃、わりとまともだったじゃん」
(ぜんっぜんまともじゃなかったよ)
 授業が始まったおかげで喉に詰まった言葉は放たれなかった。阿部からしてみれば真面目に学校と部活へ来ていた高校生の水谷がまともに思えるのだろうけど、今と昔どっちがまともだったなんてわからない。以前のほうが可能性があっただけ沸々と毎日を過ごしていたから、水谷にとってはそっちのほうがまともではなかったような気もする。
 栄口の受験は傍目から見てもうまくいっていないようで、かける言葉も知らなかったし、邪魔をするのも嫌だったから、最初の大きな試験が過ぎた後は水谷が自ら連絡をするのを慎んだ。
 栄口の進学先は大学の入学式のときに阿部から聞いた。落ち着いたらきっと栄口から連絡が来ると待っていたのに四月になってもそれはなく、むしろ阿部の口から出された地名はあまり聞き覚えのないものだった。それよりもなんで阿部には言って自分には音沙汰が無いのか。阿部の方が水谷が知らなかったことを驚いていた。お前ら仲良かったじゃんと怪訝そうな表情をした阿部の様子で、水谷は読まなければいけない空気を知る。
 オレらあんなに仲良かったのに、なんで阿部には連絡しているわけ? 忙しくてオレのことなんて忘れられている? もしかして好きだって気づかれていた? それは憶測に過ぎないけど、そうでないとしたら実は嫌われてた? 栄口は三年間も無理してオレと仲良くしてくれていた……?
 ゴールデンウィークまで待ってみたが電話もメールもなく、そうなると水谷は自分から連絡を取ることがもっと怖くてできなくなってしまった。もし電話番号もメールアドレスも変えられ、さりげなくカットアウトされていたら立ち直れない。悩んでいるうちに夏休みが終わり、また阿部から「栄口こっち帰ってきてたけど」と聞かされたら、どうも自分の嫌な予感は当たっているよう気が強まった。
「お前らなんかあったの?」
「えええ、別にぃ」
「栄口も水谷の話になると微妙な感じになる」
 これが決定打だった。栄口は意図的に水谷を避けているのだろう。確かではなかったが、真実に打ちのめされるよりはあやふやのままがよかった。それから水谷は無闇に自分を守る術ばかりを覚え、昔よりもっと臆病になってしまった。
 教官の抑揚のない声が教科書を読み上げ、隣の阿部は授業を聞くふりをしながら目は手元のスコアに落とされている。まだノートを写し終えられない水谷が、ふと顔を上げ外の風景を眺めた。今朝の吹雪の街を思い出しつつ眺めた空は、なんてことはない、昨日とそのまた昨日と同じで、淀んだ雲が辺りを覆っているだけだった。
(ところにより、ふぶき、になるでしょう)
 吹雪という言葉だけ、ゆっくりと頭の中で反芻した。映像や写真でしか見たことのない、吹雪という景色の中に栄口が存在している事実を思う。その栄口はまだ高校生の姿をしていて十八歳のままなのだった。
 拒絶された自分と、変わっている栄口を確かめるなんてできない。かといって他の何かへ力を注ぐ気力もなく、相当ダメな人間になってしまった自分をせせら笑えるくらい、すべてに無関心だった。
 この雲が雪を降らせることはなく、栄口までの距離はもう手が届かないくらい遠い。