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ところにより吹雪になるでしょう

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 まったく心当たりのない場所に探していたCDはあった。散らかっている部屋の中をさらに掻き混ぜても辺りは混沌とするだけで、元々根性のない水谷がそろそろ諦めようかとしていた頃だった。
 ベッドの下の奥の奥、ほこりにまみれた段ボール箱は、いつ自分がそこに置いたのかも忘れていた。もしかしたら……と最後の望みを賭け、腕を伸ばし手繰り寄せる。見ているだけで鼻がむずむずしてしまいそうなくらい塵が積もるその箱は、なぜだか頑丈にガムテープで封がしてあって、ますます水谷を混乱させた。
 とにもかくにもCDはそこに仕舞われていた。ふたを開くとすぐその姿が見えたので、ああ、これで阿部に借りがひとつ返せると安堵したのも束の間、さっきからの疑問がゆるゆると自分の中で解けていくのがわかった。
 このCDは栄口と最後に会ったとき、返してもらったものだから。
(やめといたら? ……やめなよ、やめろってば)
 危機を知らせる心の声は敢えて無視した。勢い任せに中身を取り出したら、床へ写真が数枚こぼれ落ちる。そこには能天気な自分と、ぎこちなく笑う栄口がアンダーシャツ姿で写っていた。
 水谷はやっとすべてを思い出した。
(この箱は前に、自分で……)
 写真のほとんどが、栄口の写っているものだった。中には明らかに隠し撮りと思われる、真剣だったり、ぼーっとしていたり、カメラを向けられた栄口が到底しなさそうな表情をしているものもある。確かこれを撮った後、何すんだよバカと怒る栄口とじゃれ合っていた。
 どこへいったのかと探していた卒業アルバムも出てきた。栄口とは三年間同じ組にならなかったけど、『クラスの風景』みたいなそこにちゃっかり自分も納まっていた。写真の中の変に緊張しているその表情が懐かしかった。
 あとダンボールに詰まっていたものは高校のときの教科書類だった。折れてしまった付箋の位置で辞書を開くと、その小さい紙には『サンキュー! 助かったよ 栄口』と書いてあった。ただそれだけの紙切れなのにあの時はとてつもなくもったい無くて貼りっぱなしにしておいたのだった。
 水谷はとうとう我慢ができなくなり、箱を勢いよく持ち立ち上げ、ひっくり返して全てぶちまけた。どさどさと落ちた中身に少し遅れ、一枚のルーズリーフが思い出の山の上へ乗った。二つに折られたそれを開いて読むと、どうも文面からして水谷の手紙に対する返信のようだったが、自分が何を書いたのかは全く思い出せない。
『最後の夏大がんばろう』
 手紙の終わりは丁寧にそう締めくくられていた。
 舞い散るほこり、大きなくしゃみの拍子に、すべてが崩れた。
 久しぶりに聞いた自分の嗚咽が情けなくて、でもどうしようもなくてまた泣いた。流れる涙がぼろぼろと頬を伝い、うつむいたら今度は床へ落ちた。
(隠して、忘れて、なかったことにしたかったんだ)
 それがどうだろう、何ら成功していない。思い出を全部隠したのはいいものの、それだけじゃ栄口のことを忘れられるはずもなく、あの夏に予想していた最悪のパターンを生きている。泣こうが喚こうがもう栄口はいないのだ。散らばった写真もノートもすべてがもう取り返しのつかない過去のものであり、後悔に耐え切れなくなった水谷はCD以外、すべてを箱へ詰め戻した。