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ところにより吹雪になるでしょう

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 開き直った水谷がまっすぐに隣の相手を見ると、床へ突いた栄口の指が震えているのを見つけた。
 両手で肩を強く掴むと、その勢いで栄口は顔を上げた。少し眉間にしわを寄せ、悲しいような困っているような複雑すぎる表情をしている。水谷はこの瞬間、ようやく息苦しい空気の意味を理解できた。
 知ってる、それは泣きそうになる直前の顔だ。今まで気づけなくてごめん。
「ずっと好きだった」
 向かいの栄口が驚きのあまり短く息を吸った隙に、水谷は全部たたみ掛けた。
「栄口が好きだった、高校のときも今も」
 栄口はなんとか息を吐き出そうとするのだが上手にできないらしく、何度も吸い込むうちに呼吸は嗚咽へ変わった。その涙があふれそうになる前に、水谷はそっと栄口の目元を手のひらで隠し、触れるだけのキスをする。抱きとめた片腕へ栄口が遠慮がちに体重を移してきているのを水谷は感じた。
 高校生の頃水谷は栄口となぜだか急にキスをしてみたくなってしまったことがあった。栄口から「オレの口に何かついてる?」と尋ねられてようやく自分が口元ばかり見ていたことに意識が回り、慌てて理由をごまかした。首をかしげながら一応納得してくれた栄口の薄い唇をちらりと見たあと、水谷は軽く唇を噛んで感触を確かめてみる。触れたのは自分の歯なのに胸の中からどくどくと何かがあふれそうになって驚いた。
(やばいどうしよう、オレ栄口のこと……)
 水谷がまともじゃなくなったのはあれからだったと思う。それからというものの栄口に対する妄想はみるみる発展していったけれど原点はあれだった。いつも、あの薄い唇へ自分の唇を寄せてみたかった。
 そういう思い入れのあった栄口とのキスは柔らかいような気もするけど、緊張しすぎていてよくわからない。でもすごく大切なことをしているような感じがした。
 随分長い間触れていた唇と唇を離し、水谷が無意識のうちに目隠ししてしまった相手の様子を伺うと、栄口はもう大分落ち着いたようだった。目を覆っていた手をゆっくり開けるとその下で栄口は既に涙を止め、まっすぐに水谷を見ていた。
「……オレだって好きだったよ」
 水谷の片腕から起き、姿勢を正した栄口は言葉を言うべき相手へと向き直る。
「今だってそうだよ、おかしいよな……」
 自らを嘲るような口調とは裏腹に、顔へは全く笑みがなく、すぐにでも泣き声が聞こえてきそうだったから水谷はまた栄口の口を塞いだ。
 軽いキスを何度か繰り返した後、わずかに開いた隙間から舌を入れると栄口の身体が不自然に小さく跳ねた。怖がらせてしまったかなと水谷は少し後悔し、ひざの上で固く結ばれていた栄口の手をほぐすために指を絡ませた。ぎこちなく逃げた指を追って相手の手首を強く掴み、そこからゆっくりと熱を伝えるように水谷の指が這う。たどたどしい関節も暖めるとだんだんゆるく溶けた。すべての指を開け放ってくたりとさせた頃には栄口の顔から大分緊張が取れてきていた、というよりは頬に薄く朱が差している。
 その口からゆっくりと舌を引き抜くと、栄口はうっすら目を開け、悩ましげに「ふ」と息を吐いた。水谷の心の中で「ひええ」と変な悲鳴が出て、絡めた指を反射的にきゅっと握り直してしまった。栄口がこんなに色っぽいなんて今まで知らなかった。どうしたのかとこちらを見る、のぼせた顔は無意識に薄く口を開けたままで、そこへまた唇を寄せると水谷の理性は完全に消え去った。
 できるんならしたい、っていうかしたい。
「えっ、ちょっと待っ……」
 水谷が覆いかぶさるように身体を寄せると栄口からストップがかかった。
「……やだ? だめ?」
「だ、だめとかそういうんじゃなく」
「じゃあなに?」
「部屋明るすぎて、その……」
 水谷は渋々立ち上がり、蛍光灯の電源を引っ張った。明かりの落ちた部屋の中を、つけっ放しだった電気ストーブのオレンジだけがじわりと染める。お互いの表情もぼんやりと確認できるし、明かりの色で肌が微かにほてって見えるから、なんだか余計いやらしくなってしまった感じだった。
「すっ、ストーブ」
「もういいよ」
「ていうかほんとにするの?」
「するよ」
「じゃあ布団敷くから……」
 これ以上まどろっこしいことを続けさせてなるものかと、水谷は強引に口付けて床へ押し倒した。
「しようよ栄口」
「……」
「オレはしたい」
 組み敷かれた栄口は返事をしなかったが、水谷から目を逸らし小さく頷いた。手を握るとおずおずと指を絡めてきてくれる仕草がかわいい。