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ところにより吹雪になるでしょう

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 その時は渡りに船だと思っていたけれど、ラブホテルの明かりが近づくとお互いの口数は少なくなり、建物の前でとうとう無言になった。ラブホテルの外装は鮮やかな赤やピンクのライトに彩られているのにどこか湿っぽくて薄暗い。横の栄口の顔は明らかに引きつっていたし、水谷だってこんな所に来るのは初めてだった。他に手段があるならすぐに飛び付きたいものだが、今はこの入口をくぐるしかない。
 腹をくくった水谷が栄口の手首を掴み敷地内へと進んだ。引いた手の向こうできっと栄口は動揺していると思うけど、振り返ったら決意が揺らぎそうでそれはしなかった。栄口が自らこんなことはしないだろうから、水谷がどうにかしなければ二人朝までラブホテルの前でまごまごしてしまう予感があった。
 こんなところで一晩過ごすといっても、二人の間には水谷がひた隠しにしている一方的な恋愛感情しかない。特別な何かをするわけでもなく、合宿みたいなものだ。以前お互いの家に泊まったことだってある。それなのに部屋に入っても動悸は治まるどころかそのペースを速めている。 
「……なんか慣れてない?」
「は、はぁ? どっからそんな……」
 何を根拠に栄口がそんなことを言うのか水谷には見当もつかない。どちらかがやらなければ物事が進まないことをただ自分がやっただけなのに、そんな言いがかりをつけられても困る。
 何か喋ったら色んなボロが出てしまいそうで、がんばって言葉を選ぶうちに言いたいことは霧となって心の中にたち込める。何度も自分に言い聞かせた「オレは栄口のことが好きだけれど、栄口はオレへ友達以上の感情を持っていない」事実が霧に紛れて霞んでくる。
 風呂場から栄口がシャワーを使っている水音がなんだか異様にいやらしく響く。本当にアダルトビデオの一シーンのようだった。水谷はシャワーを浴びている栄口の、野球焼けがまだ残る小麦色の肌が水を弾くのを妄想し、ベッドの上で体育座りをしていた身体をそのままボスッと落下させた。
(ふみきしっかりしなさい!)
 好きな人とラブホテルに泊まって正気でいられるほうがおかしいと思う。が、繰り返すように好きな人は男で、水谷も男なのだ。
 栄口がもし女の子だとしたら拝んで拝んで拝み倒してでもこのチャンスを逃さなかっただろうし、自分が女で栄口が男だったら、たとえ嫌がられたとしても無理に既成事実を作ったような気がする。そういう現実逃避をするといつも後に「どうして栄口を好きになってしまったんだろう」という疑問がついてくる。よくドラマなどで使われる、好きになる理由なんてないというありふれた言い回しがこれほどしっくりくることはない。
 時々、水谷は恋に恋しているのではないかと顧みることもあった。まだ高校生だから辛い片思いをしているかわいそうな自分に酔っているだけなのかもしれないと。いっそそうだと良かった。男なのに男を好きになるのは酔狂でできるものではなく、気づいたときにはどっぷりと沼の中だった。もがけばもがくほど身体は沈み、栄口以外の誰かへ気を移すなんてできなくなっていた。
 たとえ男同士でも好きなら好きでいいじゃないか。秘密のまま相手に知られなければ隣にいられる。疑問は後悔へと変わり、三年生になる頃にはすっかりプライドと化していた。