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ところにより吹雪になるでしょう

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 電気を落とした部屋に目が慣れてきたら水谷は良くないことを考え出し始める。もし栄口が既に寝てしまったとしたら、この隙にこっそりキスくらいしてもばれないんじゃないだろうか。栄口と最後に過ごす夏かもしれないからこれくらいのいたずら、神様だって目をつぶってくれるはず。
 けれど栄口が眠っていなかったら、長い長い片思いも全部壊れて永久変態扱いだろう。栄口のことだから露骨に態度で表さないで、さりげなく避けられる……と思うと水谷は自然と怖気づいた。
 無性に喉が渇き、水を飲みに起きたが、蛇口から出る水をいくら飲んでも全く渇きは癒されない。乱暴に口を拭いベッドへと戻ると、栄口がこちらに背を向けて横たわっている。肌が露出しているのはうなじの部分しかないが、Tシャツの下には日に焼けていない栄口の白い肌がある。柔らかなラインを描く肩甲骨のあたりもきっと白く、身体を返すと胸や腹も絶対白い。
(……だめだだめだ、寝よ寝よ……)
 そうやっていったん終止符を打ったつもりなのにベッドの中に入ると妄想はまた膨らみだした。メントレの時に『寝る前にネガティブな考え事をするのは良くない』と言われたけれど、ラブホテルにいるし変な空気だし眠れないしで水谷には思い出せるはずもなかった。
 栄口がこれからどう進路を選び、水谷がそれにがんばって追従したとしても、栄口は自分を好きになってくれるはずがない。それどころかこの前はうやむやになったけれど、もし栄口に彼女ができたら隣で笑って「おめでとう」って言えるか?
 その『彼女』という語感が気に障って水谷は苛つきはじめた。栄口とつきあうのならどんな女でも全否定してしまう自信があるのに「おめでとう」なんて絶対無理だ。でも栄口はきっとかわいい誰かと恋をして幸せな家庭を築くタイプだと思う。その時でも自分は、嫌になるくらい友達でしかない。この恋は決して進まないし、栄口との関係も永劫変わらない。初めから死んでいるものをどうして今までこんなに大事にしてきたんだろう。意味なんてなかった。
 不機嫌に寝返りを打って水谷は向かいの栄口を見た。さっきと様子が変わっていないから、きっと寝てしまったのだろう。今ならすべての欲望が叶う。腹の中にわだかまっている衝動も全部吐き出して、栄口に後悔も傷跡も残せる。悪巧みをするときの算段はいつも早い。服を荒っぽく脱がせて無理矢理やってしまいたい。栄口が途中で起きて嫌がっても、あらかじめ手をタオルで縛って抵抗できなくすればいい。密室だから助けも呼べないし、栄口は男に犯されたなんてきっと誰にも言えないから水谷が第三者に非難されることもない。悪意と嫌悪を伴うものの、栄口が自分を忘れることは一生無いだろう。
 今ならできる。身体に触ることも、キスをすることも、傷をつけて自分のものにすることも簡単だ。
 けれど水谷はこんなにもすらすらと栄口を手篭めにする方法を思いつける自分が本気で嫌になった。好きになったときはただ真摯に栄口のことを想うだけで満たされていたのに、そんな自分はもう霞んで見えない。ため息をつき、また水を飲むために身体を起こす。さっきから喉が渇いて仕方ない。
 その後五回水を飲み、二回トイレに行った。六回目から戻ってくると栄口がもう起きていた。
「水谷寝てないだろ」
「ちょっとは寝たよ」
「嘘つけ、オレずっと起きてたし」
 起きていたのか、なら変な気をおこさなくてよかったと水谷はひとり安堵した。気だるげに肩を回す栄口の目の下にはくまがあった。ちょっと休むつもりでラブホテルに入ったのにお互いすごい疲弊していると、思わずあくびのタイミングが重なってしまったときにわかった。