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ところにより吹雪になるでしょう

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 寝る事ができなかったのなら、その後そこで何をするにしても居心地が悪いように思え、夜も明けきらぬうち逃げるようにラブホテルを後にした。
 外はラブホテルに入ったときより朝に近づき、建物の輪郭が大体見て取れる程度まで明度が戻っていた。まだ電車も出ていないし、昨日は真っ暗でよくわからなかったから水谷はもう一度海へ行かないかと栄口へ提案した。栄口は簡単に頷き、また二人で歩き出す。どうやらラブホテルがあったのは大分山手のほうで、少し遠くに薄っぺらな青があるのが見えたので、下っていけばいずれ海へ着くだろう。靴擦れにバンドエイドを貼ったという栄口の足取りは軽かったが、それより疲れが上回るらしく緩い坂道でも時々足がもつれていた。
 その青はどんどん広く濃くなり、さらに最後は音を伴って二人に近づいた。細い路地を抜けると、行き交う車はほとんどないが二車線の道路があり、その先はすぐ海だった。
 昨晩花火をしていた集団もカップルたちも砂浜から跡形も無く消え去っていた。栄口はスニーカーなのにざくざくと浜辺を進み、気後れた水谷はその背中を見る形で後をついて行った。
 波間へ駆け寄るでもなく、砂をどうしたいわけでもなく、ピントがずれたような青の中をただ栄口が歩いていく。思えばこの背中を長い間隠れて見ていた。栄口の正面や横からだと気づかれてしまうから、水谷がずっと眺めていたのは背中だった。それもあと半年程度で終わるのかもしれない。どれだけ悪あがきをしてもこの背中を見れなくなる日はいつかやって来る。


 ペットボトルを拾いに言った後、横に座った水谷は相手が何も喋らないものだからそんなことばかり考えていた。そしたら自分はどうするのだろう。やっぱり絶望して泣くのだろうか。じわりと涙腺が緩み、つられて出てきた鼻をすすると磯の香りがした。顔を上げるともうすぐ夜は明けるらしく、大分取り払われた青は、今は空でまとまってせり上がってくる朝日と戦っている。さっきまで曖昧だった栄口の着ているTシャツの色もはっきり白とわかるほど夜は撤収作業を進めている。
「さかえぐちー」
 呼びかけるとようやく栄口が海から視線をこちらに向けた。改めて顔を見るとやはり疲労が色濃く出ていたが、水谷を見る優しい瞳の感じはいつもと同じだった。
「オレさぁー……」
「なに?」
「あのさぁー……」
「……」
「えっとねぇー……」
 そこまでもごもごしてしまったら、ちゃんと言いたいことをまとめなよと諭された。けど、いちばん言いたいことは多分いちばん言ってはいけないことだ。