永遠に失われしもの 第10章
留置場の一番奥の檻で
窓一つないうっそうと暗い中で、
その青白い顔を傾け、
漆黒の髪を持つ頭を
冷たく硬い鉄格子に寄りかからせるように
預けながら、セバスチャンは立っている。
--本当に余計なことをしてくれましたね
グレルさん。
あの時、音を立てないで頂ければ、
卿の死体の発見も、もう少し遅くなり
主と城に戻った後で、
すべてを焼き払ってしまえば、
簡単に事は終わりましたのに--
それにしても何かが心にひっかかると
セバスチャンは感じていた。
--ローマ警察の早すぎる動き、
一体だれの差し金なんでしょう--
こんな留置所など強行突破するのは、
彼にとってはわけもないことであるが、
なにかが計画を邪魔し、
次第にそれを狂わせているのが
彼にとっては気になっている。
ともかく暫く様子を見て、
あのラウル刑事を動かしている
ものを探らなければと感じていた。
闇の中から、たまに荒い吐息が
聞こえてくる。
気配では十人以上の人間がいるようだ。
セバスチャンは相変わらず、
鉄格子に寄りかかったまま、
通路側の看守席の方をじっと見ていて、
檻の中には興味が無い様子である。
正確には彼が見ていたものは、
自分の所持品を看守が机の引き出しに
しまっている所であった。
闇の中から声がする。
「グへ・・へ・随分と別嬪さんが
来たじゃねぇか・・・
・・こっちに来いよ・・」
作品名:永遠に失われしもの 第10章 作家名:くろ