永遠に失われしもの 第10章
警察署からシエルのいるディンギルテッラ
ホテルまで移動する馬車の中から、
ラウル刑事は、
通り沿いのカフェのテラス席に座る
葬儀屋を見つけた。
すぐに、馬車の戸を開け、
御者に止まる様に指示を出し、
カフェに入って、葬儀屋に話しかけた。
「どうも、昨夜もお会いしましたね。
刑事のラウルです」
「あ~刑事さん...
せっかくイタリアに来たのだから、
ついでに本場のカプチーノでも
飲んでおこうと思ってねぇ...」
葬儀屋はまた、おかしな形のクッキーを
バリバリ食べながら、カップを啜っていた。
「なるほど。ここよろしいですか?」
と言って、ラウルは、
葬儀屋の向かいの席に座る。
「どちらの国からいらしたんですか?」
「英国からね...小生はロンドンで
葬儀屋を開いているからねぇ...」
「ほう。外国の仕事も、度々?」
「いや、そう滅多にはないねぇ...」
「失礼ですが、どなたのご依頼か
お聞きしても?」
「知りたいかい?...」
葬儀屋は長すぎる銀髪の前髪を
揺らしながら、へらへらと笑っている。
「それなら小生に『極上の笑い』をおくれ
..って君には期待できそうもないねぇ」
と言いながら、身体を揺らしてへらへら
笑っている葬儀屋をみて、不気味な男だと
ラウルは思ったが、
有力な枢機卿の葬儀なら、
教皇が依頼したのだろうと考えていた。
「では最後に一つだけ・・・
英国では近頃
シエル・ファントムハイブ伯爵という
少年が亡くなられたそうですが、
その方のご葬儀は手がけられましたか?」
葬儀屋は、ラウルの前で笑い続けている。
ラウルが答えを諦めて、
そろそろ立ち去ろうか考えていたときに、
葬儀屋が話し始めた。
「いやいや、君を見くびっていたよ...
人間見た目じゃ才能は判断できないねぇ。
君の笑いの才能は、天性のものだね...
小生は伯爵の葬儀はやっていないよ..
それからお礼に
一ついいことを教えてあげよう...
エット-レ卿は殺されたとき、
何かを盗まれたはずだよ...」
ラウルは、葬儀屋の思いもかけない言葉に
驚いている。
「結構カプチーノとも合うもんだねぇ...」
と言いながら、クッキーを食べ終わると、
葬儀屋は、立ち去っていってしまった。
すぐにラウル刑事が通りに出て、
彼を探しても
もう葬儀屋の姿は見えなかった。
作品名:永遠に失われしもの 第10章 作家名:くろ