永遠に失われしもの 第10章
・・あの刑事一体何を聞きにきたんだ?
まぁいい・・
必死にエット-レ卿の犯人を
追うがいいさ・・
たとえ僕たちが犯人だと知ったところで、
何もできまい・・
何故セバスチャンはまだ帰ってこ・・
止そう・・
僕は知っている、
僕が呼べば・・お前は必ず現れる。
何度も目にしたことのある、自分の足元に
ひざまずくセバスチャンが脳裏に浮かぶ。
その映像に重なるように、彼の意味深げな
謎めいた微笑を思い起こした。
そして・・お前に言われなくとも、
僕は僕のすべきことをするだけだ・・
ラウル刑事が帰り、
シエルはシルクハットを用意して、
外出の準備をしている。
ただ葬儀屋からの情報を一人、
じっと待っているよりも、
ローマ中の古書店や、図書館をあたって、
他に情報がないかどうか調べる方が
有益だと考えたのだ。
・・この間のように、
魔力を使ってしまうのは考えものだな・・
と考えながら、髑髏の模様のついた杖を
掴んだとき、窓のカーテンがはためいた。
「お待ちなさい!」
シエルが振り向くと、
そこには眼鏡をデスサイズで上げる
ウィルと、黒い燕尾服の上から紅いコート
を羽織った、グレルが立っていた。
「お前らが何故ここにきたッ?
セバスチャンはいないぞ!」
「アレがいないのは知っています。
だから来たのです。
時間の無駄と、
手荒なことはしたくありませんから、
大人しくついてきなさい」
とウィルは靴音を響かせながら、
シエルに歩み寄る。
「何ョ・・・ソレ!
ウィルったら、ヤケに優しいじゃナイ
このガキにサァ・・・
何?ウィルって大人の女相手だと
馬鹿にされそうで怖いとか・・
そういうタイプなのォ?」
ガシっと音がして、
グレルが吹っ飛んでいく。
「見せたいものがあるだけです。
こちらに来なさい」
何だ?と思い見上げた瞬間に、
ウィルの拳でシエルの腹を抉るように
殴られて、気を失ったシエルを
素早く肩にかかえたウィルが叫ぶ。
「グレル・サトクリフ!
空間を開いてください」
「モウ・・このガキ・・セバスちゃんと
毎日イチャつきながら、今度は、
ウィルにそんなに密着しちゃっテ~~~~
絶対いつか狩ってやるゥゥ~~」
と叫び、燃え上がる炎のように
長く真っ赤な髪を振り乱しながら、
チェーンソーで空間を切り裂いた。
空間に飛ぶ込む際にグレルはウィルに
尋ねた。
「ネェ・・このガキに見せたい物って?」
「セバスチャン・ミカエリスが、
自分の命を投げ打って、
この飼い主のために、
無様に狩られる様子です」
「ゥゥ~・・ホンとにウィルって
ドSなんダカラ~~」
「よだれ拭きなさい、みっともない」
光の中に全てが飲み込まれていって、
後にはシエルのシルクハットが
床に転がっているだけであった。
作品名:永遠に失われしもの 第10章 作家名:くろ