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世界が幸福に包まれる

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日もとっぷり暮れ、空が深い藍色に染まる頃。テーブルは美味しそうな食事で彩られ、祝う準備はとうにできていた。
しかし未だにそれらに手はつけられていない。楽しげな会話も部屋に響かない。

そう、夕方には帰ってくるはずであった主役が帰ってきてないのだ。

帝人は何度も音を鳴らさない携帯電話を確認しては、悲しそうに目を細める。体操座りの格好でソファーに沈み込んで、額を膝頭に押し付けそっと息を吐いた。
サイケと学人は視線を合わせてはどうしようと戸惑いを露にする。きゅ、と繋いだ手に力が篭った。

「みか、ど…くん」

恐る恐る声を掛けると、帝人は顔を上げて困ったように笑う。そしてソファーから降りると、ぽん、と二人の頭を撫でて呟いた。

「臨也さん、どうしたんだろうねぇ……本当に、」
「帝人さん…」
「メールしてみよっか、どう思う?」

きっと本当はすぐにでも電話を掛けたいだろう。しかし、帝人は臨也の仕事の邪魔になることだけは避けたいため、それを我慢しているのだろう。
携帯電話をきゅっと握りしめて、それでも笑おうとする彼を見るのが辛かった、時。

帝人の携帯電話が、着信音を響かせ始めた。勿論、相手は――

「いざ、…さん」
「本当?帝人君!」
「は、早く出てあげて下さいっ」

あわあわとする二人に帝人はこくりと頷くと、着信ボタンをそっと押す。携帯電話を耳に近付けすぐ、待ち望んでいた声が聞こえた。

『帝人君ごめん!連絡遅れて…もっと早くに連絡するつもりだったんだけど、って言い訳、だね』
「臨也さん、そんないいんですよ……良かったです」

心底安堵したような表情を見せる帝人に、サイケと学人も顔を合わせてほっと息を吐いた。
臨也も何が不都合があったのだろう。帝人君に心配かけるなって帰ってきたら怒鳴ってやろう。
でも、その後はちゃんとお祝いしよう。おめでとうって、ありがとうって。
それなのに、

『あのさ……実は、この後も仕事入っちゃって、帰るのが遅くなるんだ。十二時も過ぎるかも…』
「…ぇ、」
「帝人君?」
「、?」

すぐ後の臨也の言葉を聞いて、帝人は息を呑んで固まってしまった。
サイケと学人がきょと、と帝人を見上げる。どうしたの?と訊ねてくる二人に何とか笑みをつくって、何か返そうと口を開く。
しかし上手く言葉が出てこない。どくん、心臓が高鳴って煩い。受話器越しに気付かれてしまわないように息を吸って、吐いて、そして。

「そう、ですか。分かりました」
『うん…本当ごめん。御飯もいらないから、先に食べててね』
「……はい、臨也さんも気をつけてくださいね」
『分かってる。ごめんね…それじゃあ』

ブツリと通話が切れ、ツーツーと無機質な音が聞こえる。電源ボタンを押し暗くなった液晶を、帝人はぼんやりと眺める。
帝人君、帝人さん。幼い声に呼ばれ、帝人は声の方へと視線を向ける。不安を宿したそれを認めて、困ったように笑った。

「臨也さんね、お仕事が入っちゃったんだって」
「えっ!?」
「そうなんです、か?」
「うん、だから今日は無しだね」
「そんな……駄目!駄目だよそんなのっ」

ぎゅっと帝人の手を握って、サイケは声を荒げた。珍しいそれに帝人は目を見開いて言葉を失う。
学人も驚きを露にしてサイケを見つめる。それにもかかわらずサイケは言葉を続けた。

「だって、だって帝人君が一番臨也君のことが好きなんでしょう?」
「えっ、え、…いや、それはその、あの」
「それなら悔しくないの!?臨也君が誕生日を、別の人と過ごすなんて……」

サイケは悔しいよ。
一気に言葉を吐いた後、サイケは泣き出す寸前の顔をしてしょぼんと項垂れる。
対する帝人は一回目を瞬かせた後、柔らかな笑みを浮かべて「ありがとう、」と囁いた。

「サイケ君、優しいね。学人君も、気にしてくれてありがとう」
「帝人君…」
「帝人、さん」
「確かに今日一緒にお祝いできないのは悲しいよ。でも、“おめでとう”ってお祝いするのは、今日じゃないと駄目ってわけじゃないから」
「……うん」
「臨也さんの仕事が落ち着いた日に、皆でお祝いしよう。二人はそれじゃ…駄目かな?」

帝人の言葉に慌てて首を振る二人に、帝人はくすくすと笑う。
それじゃあ、と立ち上がると、携帯電話をテーブルに置いてキッチンへ向かった。

「サイケ君と学人君も手伝ってもらえるかな?」
「何をですか?」
「料理…ラップとか色々しなきゃ。臨也さんと一緒に食べたいしね」
「分かった!手伝う!」
「僕もしますっ」

とたとた。二人分の足音が部屋に響く。
帝人はふと携帯電話に視線をやって、また悲しそうに目を細めたが、それもすぐに消える。

「じゃあ、よろしくね」

笑顔の下に隠した感情を、臨也にぶつけたりなんてしない。
そう思いながら、帝人は二人と一緒にキッチンを後にした。