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世界が幸福に包まれる

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携帯電話の時間が二十三時の半を差す。
風呂も済ませた帝人はソファーの背もたれに背を預けさせ、携帯電話を握りしめたまま眠ってしまっていた。
帰ってくるのを待っていたが転寝をしてしまっている。今日は何時もよりも家事を頑張ったため疲れてしまったようだ。

「あ、帝人君寝ちゃってる」
「本当です…どうしますか、サイケさん」
「うーん……」

サイケは少し考え込み、一つ何か思いついたのかこしょこしょと学人に伝えると学人も笑って頷く。そして二人で帝人の隣にそれぞれ腰掛けると、にこにこと帝人を挟んで笑い合った。

「早く帰ってくるといいね、臨也君」
「もうそろそろだとは思うんですけど…」

その時、がちゃんと扉が開かれる音が響いて、二人は思わず無言になる。しかし考えていることは一緒だった。
此処にチャイムもなく入ってこれる人間は限られている。一人は帝人で、もう一人は。

「……臨也君だああああああ!」
「サイケさんっ」

いきなり叫んだかと思うと、サイケはいきなりソファーから降り猛スピードで駆けていく。それに呆気にとられていた学人だったが、ハッと我に返ると慌ててサイケを追っていった。
どたどた、足音を響かせ向かう先は玄関。そこに立ち竦む姿を認めて、二人は大きく口を開いた。


「あれ、サイケに学人君……どうしっ」
「臨也君のばかぁ!早く!」
「急いでくださいいい…」
「はァ!?何だよ一体っ」

ずっと待っていた存在を玄関で見つけた途端、二人はは手を引っ掴み来た道を急いで戻る。臨也は突然のことに何が何だか分からず、サイケたちにされるがままになっていた。
ただし二人が向かったのはソファーのところではなくキッチン、そしてそこの冷蔵庫。
臨也は相変わらず現状を理解できていなかったが、開け放たれた冷蔵庫の扉の向こうを目にして、息を呑んだ。

沢山の料理、それも臨也の好物ばかり。それらがラップを掛けられていたり、プラスチックの容器に詰められていたりした。
そして極めつけは、決してケーキ屋のように立派ではないが、丁寧にデコレーションされたケーキがそこにはある。

ここまで目にして気付かないような鈍いやつではない。しかし信じることができなくて、臨也は思わず二人に問うた。

「…あの、さ。今日って…その、」
「臨也君の誕生日でしょう!帝人君、昼真っから準備していたんだからね!」
「え、じゃあ何で朝何も、」
「その…臨也さんをびっくりさせようとしたんじゃないかと」
「そ、か……じゃあ俺、酷いことしちゃったね」

元々、料理が得意な子ではないのに。それでも一生懸命作ってくれたのに。俺は、おれは。
冷蔵庫に眠る料理を見つめたまま言葉を失う臨也に、サイケはむっと頬を膨らませる。
そしてバン!と大きな音を立てて冷蔵庫の扉を閉めると、また手を掴んでまた別の場所へ向かう。今度は帝人のいるソファーの場所へ。

「帝人君起きて!臨也君のばかが帰ってきたよ!」
「サ、サイケさん!そんな大きな声出しちゃ駄目ですよっ」
「突っ込むとこそこなの?軽く傷つくんだけど学人君…」
「臨也君は黙って!いや帝人君に謝って!」

騒がしい音に気付いたのか、瞼がゆっくり開かれていく。青みがかったそれが見えるのと同時に、臨也は我慢しきれずその身体を強く抱きしめた。
突然のことに覚醒しきれていない帝人は、無言のまま臨也の腕の中に納まる。しかし段々と意識がはっきりしていくと、顔を赤く染めあわあわと腕の中でもがき始めた。

「い、いい、臨也さ…っどうしたんですか!?」
「……ごめん。帝人君、本当にごめん」

帝人の肩口に顔を埋めたまま「ごめん」と何度も繰り返す臨也に、帝人は混乱を隠し切れない。サイケと学人を臨也の向こうに見つけて慌てて説明を求めた。

「ど、どういうことなの?てか臨也さん何時帰ってきて…」
「ついさっきだよ。で、今日のこと教えたらこうなった」
「あ、あの…臨也さんも後悔しているみたいですので、その…」

二人の言葉と臨也の滅多に見られない姿に納得して帝人は笑った。ぎゅっと臨也の身体を抱き返せばびくりと揺れる。
それがおかしくて帝人は笑みを深くし、臨也さん、と名前を呼んだ。優しい声音が響いて、漸く臨也は顔を上げて帝人と目を合わせる。
敵対する相手には暗く冷たいそれに、今は後悔とか反省とかこれまでの臨也とはかけ離れたものが浮かんでいる。
それを無くしたいと心から思い、帝人はそっと頬に触れて、普段サイケや学人に話しかけるときのように言葉を紡いだ。

「臨也さん、僕は別に怒ってなんていないですよ。お仕事だからしょうがないです」
「でも、せっかく帝人君が…」
「まぁ……本音を言えば寂しかったし、悲しかったです。でもお祝いは何時だってできます。それよりも、臨也さんが今日もこうして無事に過ごせたってことのほうが大切ですよ」

ちゃんと無事に帰ってきてくれるから、お祝いができるんですよ。
ふにゃりと帝人は笑って、帝人はずっと言いたかった言葉を紡いだ。

「…臨也さん、」
「ん、」
「お誕生日、おめでとうございます」

「生まれてきてくれて、そして僕と一緒にいてくれて、ありがとうございます」





そして、時刻は零時を示し、臨也は返事の変わりに再び強く帝人を抱きしめた。