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吐きだめに犬

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 初めは些細な嘘だった。練習が終わった後の部室では告白してきた女の子を阿部がこっぴどく振った話で持ちきりだった。一部始終を田島と泉が見てしまったものだから、その話題はあっという間に部内へ広まり、その女子がまあまあかわいいのもあって阿部はすっかり悪役扱いされていた。部内の『もったいない』と『もっと優しく断れ』という非難の嵐の中で阿部は一言「だって面倒だろ」と吐き捨て、火に油を注いだ。でもオレは面倒っていう阿部の気持ちもわからなくはないんだよね。



 あれは中一の頃だったけど、突然の告白に『もったいない』って思ったオレはある女の子とつきあうことになった。でも中一よ? オレまだ十二歳よ?
 「おっぱい」って単語だけで無闇に笑える年頃なのに男女交際とか未知の領域で、一応彼氏彼女の仲になったんだけど、前よりぎくしゃくしてしまっただけだった。
 そんなオレに彼女が提案したのが交換日記だったわけ。あっ、今でもその語感がトラウマだわ。
 かわいい字で、今日何があった何を食べたとか、ナントカちゃんはナニナニちゃんとどうのこうの……がびっしり書いてあった。女子ってすごいよな、一日の出来事をこんなにたくさん書けるなんてきっと毎日が楽しいに違いない……と感嘆するのも束の間、次はオレが書かなければいけない番だった。夏休みの日記ですらまともにつけたことがないのに交換日記なんて苦行でしかなく、頭をフル回転させたのにもかかわらず「今日は学校に行って部活をして帰った」としか記せなかった。
 こんな感じで返したら当然「もっと書いてよ」って言われるわけで、そうなるともう面倒で面倒で仕方なかった。
 滞る返事に痺れを切らしたのか、ある日女子数人を引き連れた彼女に「なんで交換日記書いてくれないの」と詰め寄られた。
「あ、ごめん、忘れてた……」
「忘れてたってひどいじゃない! この子はね、ずっと水谷の返事……」
「うえーん……」
 出たぜ伝家の宝刀・女の涙。泣いてしまった子を取り囲んでオレを凄む女子数人、この場面で悪役にならない男はいない。
 つーかオレにだって交換日記に応じない権利はあるだろ。なんで恋人同士だったらしてくれて当たり前! 義務でしょ! って要求するのかな、と口が滑りそうになったけど踏みとどまった。
 結果オレには中学の三年間「女の子の気持ちを考えないサイテー男」のレッテルが貼られることになった。男子に事情を話すと同情してもらえるんだけど、女子は頑なにシカトするから弁解するのも途中で諦めた。なんだあいつら、サムライか。同胞の敵はそれがしの敵、同胞を傷つけた輩とは口をききたくないでござる! みたいな変な連帯感を持ってるよ。不思議すぎるし、考えても理解はできねーよ。

作品名:吐きだめに犬 作家名:さはら