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吐きだめに犬

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 恋が初まったと思ったら一瞬にして終わってしまった。えっ、なにげに今のひどくない? 栄口のこと好きって意識したのと同時にほかの人とお付き合い宣言とかありえなくない? オレの間の悪さってここまで乱暴だったっけ?
「……名前、なんていうの」
「えっ? ああ、……み、ミキさんっていうんだけど」
 へーミキちゃんね、ミキちゃんミキちゃん。かわいい名前じゃないですか。いやそれはぶっちゃけどうでもいいんだけど、どーあすんのオレ。話聞いてもらえたら、ってそんな、つきあった女子と交換日記の時点で破綻した恋愛ペーパードライバーのオレが、初心者マークの栄口にアドバイスなんてできるのかぁ?
 栄口が怪訝そうにオレを見ている。どうも何度も名前を呼んだのにオレから反応がなかったから不安になったみたい。そんな顔されたらますます本当のことが言い出しにくくなっちゃうじゃん。あの時オレが言ったことは全部作り話でした、知ったかぶりしてただけですって明かしたら、さすがに栄口から「嘘つき」って軽蔑されちゃうよね。それはやっぱり避けたいなぁ、うーん、甘いかなぁ。
 でもさ、今のうちに弁解しておかないと取り返しがつかなくなるだけじゃなく、これからずっと好きな人から彼女の相談をされるとかいう拷問を笑顔で受けなきゃいけないわけだぜ。あっ、なんか想像しただけで涙が出そうになるんですけど。
「……頼りにしてもいい?」
 さかえぐちのバーカ! オレなんかに相談しちゃうくらい不安なら、そんな女とつきあうなっつーの!
「……ミキちゃんってかわいい?」
「へっ?」
「かわいい?」
「そ、それなりなんじゃないかなぁ」
 オレが大きくうな垂れた姿を頷いたように受け取ったのだろう、ぼそぼそと恥ずかしそうに馴れ初めを語りだした栄口はすっごくかわいいんだけど、もう他の誰かに売約済だと思うと腹の中に鉛でも入れられたみたいに身体が重い。売約済ってひどい例えだな。でも世の中は早い者勝ち、栄口の権利はその彼女さんに渡っているから、外部のオレがどうギャギャー騒いだってもう遅い。いや、女の子と張り合ったって勝ち目がないのは明らかなんだろうけどさ……。
「栄口ばっかりずるーい、オレにも誰か紹介してよぉ」
「水谷はほっといてもできるだろ」
「なんでー?」
「お前かっこいいじゃん」
 精一杯の強がりへ返ってきた褒め言葉は強烈に残酷だった。かっこいいから彼女がすぐできるとか意味なんてねーよ。オレは目の前にいる栄口の彼女になりたい……ん? オレ男だし彼氏なのか? でも栄口も男だよね? わからない、もーわからない!
 やっぱり嘘は良くないよね。一度嘘をついちゃうと、その嘘を守るためにまた嘘をつかなきゃいけなくなっちゃうもん。それにオレはたくさんの嘘を管理できるほど器用じゃないと思うのよね。はぁ。
 そういうわけで、これからオレは栄口とミキちゃんの恋路について、真剣にでまかせを考えなきゃいけないという地獄を生きるはめになりましたとさ。

作品名:吐きだめに犬 作家名:さはら