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吐きだめに犬

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 童話のウソツキは、みんなの関心を惹くために嘘を繰り返し、そのうち誰からも信用されなくなった。本当にピンチのとき助けを呼んでも、日頃の行いのせいで助けに来てくれる人はいなくて、最後にオオカミに食べられてしまう。ウソツキには手痛いしっぺ返しが待っているという教訓が込められた話だ。
 オレもまた、栄口へ毎日のように嘘をついている。けど童話と違ってどの嘘もまだ嘘だとバレてないから栄口はオレのことを信頼しきっているのが辛い。栄口から相談を受けるたび、そりゃ仲良くはなれたよ。誰にも相談できないことをオレだけに打ち明けられるのはうれしかったし、すっごい友達って感じがするじゃん。
 でもさー、本当の意味で『友達』でしかないのよね。オレはもっと別の関係でいたいわけ。ぶっちゃけると栄口内のミキちゃんポジションですよ。ミキちゃんはいいよな、栄口に好きって言ってもらえるし、ちゅーだって……あっ、死にたくなってきた。
 栄口は何が不安でオレなんかに相談してるのかなぁ。お互い好き同士でつきあってるんでしょ? 幸せな二人には何も悩むことなんて無いように思えるんだけど。
 実際、恋愛経験のないオレからしてみても栄口の相談は「そんなのどうでもいいんじゃない?」っていうくらい大したことのないものだった。あの時ミキがあーしてオレはこう言ったんだけどそれって微妙じゃない? といちいち小さな出来事で栄口は気にやんでいる。
 はっきり言うぜ、どうでもいい。明日のオニギリの具の中身よりどうでもいい。でも二人にとって、特に栄口にとってはどうでもよくない。相手の態度や自分の言動を思い返して切なくなって、心がざわざわと波打って堪えきれないんだろう。あと栄口はやること為すこと後から後悔するタイプっぽくて、往生際が悪いというか、男らしくないなぁと思うんだけど、そこがまた好きです。うわぁ、報われない。
 オレはといえばなんとか生き地獄をギリギリで過ごしているわけで。最初の一週間は家に帰るたびめそめそ泣いてたけど、今はわりと平気。自分からは言い出しにくそうな栄口をからかって、そこからスルスル悩みを聞きだすのにもだいぶ慣れてきた。しんどいのは変わらないけど、今更拒否するのも不審がられるだろう。それに不安や悩みを打ち明けた後の栄口が見せる、少しほっとしたような顔が好きだった。
 アドバイスが功を奏しているのかどうかは知らないけど、栄口とミキちゃんは順風満帆、どう考えてもお似合いのカップル。それに愛の力ってやつがあれば多少の困難だって二人で乗り越えられるって陳腐なテレビドラマも言ってるのに、依然として栄口はオレを頼る。
「水谷はどう思う?」
 オレは段々気づいてきた。栄口が欲しいのは経験者からの助言じゃなく、他愛もない悩みを聞き、やわらかく肯定してくれる存在なのかもしれないって。
 そういうふうに都合よく利用してくれても別に構わないんだけど、好きな人の恋愛進捗状況をリアルタイムに知れるというのは、時々胸が張り裂けそうになる。栄口が一向にオレの作り話を疑ってくれないから、身から出た錆とはいえ、キスを済ませた後の二人のそれなんてね、顔の引き攣りを抑えるので精一杯。もう嫌です。つか本当に嫌だな。どうにかならないもんかなぁ。
 いつものコンビニ前、しゃがんだ栄口はペットボトルをゆるく揺らしながら何かを言い淀む。久しぶりに部活も練習試合も無い週末なのにウキウキしないってのは損だぜ、そうオレがへらへらすると、栄口はふらつくペットボトルを地面へ突いた。
「あのさー……」
「ん? なになに? またミキちゃん関係?」
「や、やっぱいい」
 うわぁ、その思わせぶりな態度気になるぅ、けど聞かないほうが身のためって予感も伝わってくるぅ。 
 でもここまで突っ込んでおいてスルーするほうが不自然っしょ。足元の栄口を言えよ〜ってくすぐったら、変な笑い声と一緒にペットボトルがゴトリと倒れた。
 頼れる(?)相談役のオレへも、ぼそぼそと恥ずかしそうに話す。栄口の顔が真っ赤なのは、さっきオレが悪ふざけをしたせいってわけじゃない。つまり……
「マジっすか」
 間抜けな第一声が渇いた喉から出た。なんか耳の後ろらへんがガンガンして、頭全体が熱っぽくて視界が歪む。栄口が誰かとつきあうって知ったときから恐れていたことがついに現実に! 土曜の夜誰もいないから勇人ウチ来ない? ってベタすぎるお誘いですね!
 うへへオメデトー。そういうのはさ、人それぞれだから多分オレの言ったことなんてぜんっぜん役に立たないと思うぜ。ミキちゃんに優しくしてやれよぉ。
 ばーーーか! オレのバーカ! どの口が! そんなことを! 
 だってああ言うしかないじゃん。栄口はオレを信じきっているし、この期に及んで全部嘘ですなんてネタばらしなんてできないし。だからあれだって精一杯の強がりだよ。本当は全力で阻止したい。泣いて喚いて困らせて「絶対やだ、そんなことしないで」ってせがみたい。でもそんなことしたら栄口はきっと困惑するだろうし、オレは栄口の『友達』なんだから『友達』らしくしなきゃいけな……。
 今まで自分を騙し騙し耐えてきたけど、ごめんもう無理。やっぱりオレ、栄口のことが好きなんだ。オレ以外の人とそんなことになっちゃったりしたら嫌だ。嫌だったら嫌なの!! 
 こみ上げてくるものが半端なくて、早口で別れの言葉を放ったら栄口の顔も見ず走って逃げた。これ以上は無理。本気で無理。
 家に帰って自分の部屋のドアを閉めた拍子に、わっとせき止めていた涙があふれた。今日くらいはみっともなく泣くことを許して欲しいなぁ。息も絶え絶えの片思いがようやく木っ端微塵に砕け散った記念日だしさぁ。



 晩ご飯も食べずにおんおん泣いていたら、徐々に身体へ疲労感が現れ始めた。瞼が腫れてる感じがするし、喉からはゼエゼエ変な音がする。辛くて悲しいからずっと泣き続けてやろうと思っていたのに、それにすら限界があることを初めて知った。まだまだ失恋についてごねるつもりは満々なんだけど、くやしい、お腹が空いてきてしまった。けど食欲は全然なくて、起きているのも面倒だったからそのまま寝ることにした。

作品名:吐きだめに犬 作家名:さはら