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吐きだめに犬

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「文貴、どこ出かけるのー?」
「外」
 そういうぞんざいなやり取りの後、オレは紙箱をひとつぶら下げてまた家に舞い戻った。箱の中にはオレの大好きなチョコレートがたっぷりかかっているのと、生クリームがどっさり入ってるドーナツがぎっしり詰まっている。いつもなら母さんにもおすそ分けするところだが、今日は一人で全部食ってやるんだぜ。
 悲しみのどん底にいるオレにとっては、ちょっと混んでいる日曜の午後のドーナツ屋でみんな和気あいあいと歓談しているのすら気に食わなかった。一人きりの部屋の中であぐらをかいて両手にドーナツを持ってみる。箱にはまだたくさん。行儀悪くむしゃりとかぶりつくと、はみ出た生クリームが頬についた。
 もぐもぐ噛んでみてもドーナツは全然甘くない。味すらしない。涙が一粒、ぼたりとドーナツへ落ちた。味覚がなくなってしまったのは鼻が詰まっているからで、なんで鼻が詰まっているのかというと、オレはまた泣いてしまっているからなのです。
 手の温度で持っていたドーナツのチョコレートが溶け、指先が茶色く汚れている。食べても食べてもおいしくないから、やけ食いすらできない自分がすっごく情けなく思えた。栄口のバカ、ひどい、好きになるんじゃなかった。栄口なんかせめてオレに見えないところで幸せになれよ! あっ、でもそれも微妙に辛いかも。
 結局オレはどうしたかったのかなぁ。嫌われたくないから嘘をつき続けて、そのせいで栄口と彼女さんのラブラブっぷりにダメージ喰らいまくりのボロボロ状態。でもどう足掻いてもハッピーエンドにはならなかったのかも。常識的に考えて、この片思いは叶わない要素が多すぎる!!
 あー! さかえぐちさかえぐち! 栄口のバカー!
「……なんで泣いてるの?」
 当の本人、栄口が戸口で唖然と突っ立っている。オレが買った所と同じドーナツ屋の紙箱を手に下げ、少し申し訳なさそうに「おばさんが勝手に入っていいって言うから入っちゃったんだけど……」と困惑している。そりゃそうだ、部屋に上がり込んだらいきなり男子高校生が泣きながらドーナツを貪り食ってる場面に遭遇するとなんて誰も予想しない。ていうか失恋相手にこんな有様を見られてしまったオレは宇宙一かっこ悪いんじゃないだろうか。
「さわんないでぇ」
 何をするつもりかは知らないけど、差し伸べられた手を条件反射で振り払ったら、栄口がすごく傷ついたような顔をした。おいおい、よっぽど傷ついてるのはこっちのほうだぜ。月曜からはちゃんとしようと思ってたから、せめて今日までは栄口に会いたくなかった。ていうか栄口は、なんで、何のために、今日オレへ会いに……。 
 もしかしてまた相談されちゃうのかな? オレはまた口からでまかせで切り抜けなきゃいけないのかな?
 ごめんもう無理。嘘を突き通す余裕もない。
「今まで嘘ついててごめんなさい」
「は?」
「全部嘘だった!
 つきあった子とは手もつないでないよ!
 栄口が信じてきたもの全部、オレの作り話だよ!!」
 栄口はいぶかしげに眉をひそめ、オレの放った言葉をゆっくり解いているようだった。
「そうやって何も知らないオレをからかってたわけ?」
「ちがう! 栄口に相談されるのがうれしかったんだもん!」
「それにしたってひどいだろ」
 大きく溜め息を吐き、うつむいてしまった栄口で、とうとうオレの中の憤り抑制機関が派手にぶっ壊れた。
「あーもー! どうでもいい!!
 好きなんだよ! 栄口が!
 好きな子の相談なんて死ぬほど嫌だったけど、頼りにされるほうがうれしかったんだよ!!」
「わかんないならもっかい言うよ栄口が好きなんだよ!」
 部屋の中に自分の悲鳴がぐわんぐわんと響き、そこでようやくとんでもないことを口走ってしまったことに気がついた。遅すぎる! 好きとかそんな、彼女持ちはまだいいとして、男のオレが男の栄口へ告白するとか、いくら積もり積もったものがあったといえばあったんだけどマジありえねー! どうしよ! 勢いであんなこと言っちゃったけど、ぶっちゃけその後のどうするかとか全然考えてなかったっ!

作品名:吐きだめに犬 作家名:さはら