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獣のようにもう一度

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 二番目に求められているのは慎み、フォロー、広い心。男のくせに告って玉砕しても、まだ好きでいられるだけありがたいと思わなきゃ。意思の疎通は皆無で、気の遠くなるほど一方的な片思いができるのもひとえに愛のおかげだよ。
 一番目のミキちゃんのことを栄口に尋ねてはいけない。そんなことしたって不幸になるのが目に見えているから。でもときどきミキちゃんのことがうらやましくてたまらなくなるときがある。オレが栄口に何回もねだってお願いして頼み込んでしてもらうキスも、ミキちゃんなら一発だろ? ていうか一番目だし、何より恋人同士なんだから、こ、こう、川が上から下へ流れてく? ごくごく自然な感じに……あっ、わけわかんなくなってきた。なんていうの? ラブラブ同士が持つ当然かつ必然な雰囲気で「キスなんか生活の一部ですよ!」みたいな余裕があるに違いない!
 比べてオレのカツカツぶりといったら爆笑もんだね、未だに歯がガツっとぶつかるとかありえんし。したいなぁ、しようよぉ、してよ、してください、と頭を下げても栄口は首を縦に振らないので、したいなぁ? してもいい? させて? まで泣きついてようやくOKがもらえます。どんなにウザがられようと世の中やったもん勝ち、唇と唇がくっつくとスカスカの気持ちに水が満ちる。図々しくて横暴なオレでもまだ嫌われてないんだなって実感できる。
 あの日はいつもより決断をためらいがちにされてしまって、なんだかやり切れなくなってしまったオレは半ば強引に栄口を部室の壁へ押し付けた。その目にははっきりと怯えがあったけど、無理矢理口を割って中へ舌を入れたら栄口の身体が小さく跳ねた。逃げるから追っちゃうってこと、栄口は学習してないのかな。
 舌が絡むだけで背筋に予感が走る。なんか今日はすごく乾いて全然足りない。ぬらりとした感触でぬるい体温を共有するとかなり深いところで繋がっている気がして、それは錯覚だと知っているけど求めることをやめられなかった。震える奥歯に触れたら栄口があごの角度をわずかに上げ、オレのあごと強くくっついた。びっくりして目を開くと、いつの間にか覆いかぶさるような体勢になってしまったオレの下で栄口はきつく目をつぶり、微妙に泣きそうであることが伺えた。これは嫌な予感。慌てて舌を抜くと栄口から深呼吸ともため息とも受け取れる荒い息がひとつ吐かれた。えろい。
 いや、決してエロくないです! 栄口はオレの心を見透かすのが上手だから、こんなときだらしのない顔をしていたら「したいなー」「やりたいなー」って思っていることがまるっと見破られてしまう! それはいくらなんでも二番目のくせにおこがましいので必死にごまかした。
「ごっごごごめん、もう帰るんだよね?」
 未だ息を整えきれず、壁に背を預けた栄口がオレにちらりと視線を向け無愛想に喋る。
「……帰るけど、しばらく放って置いて」
「なんで?」
「たっ……た」
 やっべオレの彼氏超かわいい。そんなに気まずそうにうつむかなくていいのに、オレはどんな栄口だって好きだもん。それにオレの好き好きオーラが栄口へちょっとだけ通じたみたいでかなりうれしい。
「ごめん、本当どうかしてるよな」
 すっごく申し訳なさそうに謝られると、なんでだろう、自分が持っているすべての手段でなんとかしてあげたくなってしまう。
「してあげようか?」
「へ?」
「く、くちで……」
「水谷、それどういう意味……」
 言い終わらないうちにオレが栄口のベルトへ手をかけたから続く言葉は放たれなかった。栄口だってごくごく普通の健全な高校生なのだ、口で何をどうするのかくらいの知識は持っていたみたいで、「座って?」と頼んだら、壁にもたれたままその背中をずるずると傾けた。
 「してあげる」と見栄を切ったんだけどやっぱり心の中に恐怖がはびこっていて、栄口のズボンの前をはだける手が震えた。
 オレは何が怖いんだろう。思い当たるのは、やっぱり咥えるなんてできなかった自分に気づいちゃうことと、栄口に気持ち悪いって思われてしまうこと。もしできなかったら栄口に対するオレの気持ちなんてその程度のもの、になっちゃう。男なのに栄口が好き、でも結局自分が大事でこの手を汚すような真似はできないのなら、この想いはペラッペラに薄い。だとしたら恋が試されているのかもしれない。なら何が何でもやらなきゃいけない。栄口にどう思われるかっていうのはやってから考えても遅くないや。
 でもやっぱり実物を見るとどこかで怯んで思わず唾を飲んだ。で、できるのかなオレ。いや、できる! こんなのただの身体の一部分、いわば肉のカタマリだろ! 指や腕を舐めるのと何が違うっていうんだ!
「うっあ、やっばい……」
「ほひは?」
「咥えたまんましゃべるなぁ!」
 頭ごなしに怒られたので作業に集中することにした。持てる知識を総動員して一生懸命反復運動を繰り返すたび、栄口が自分の手のひらで抑えた口から小さく声が漏れた。それは多分オレの口の中が気持ちいいからなんだ。う、うれしいな! 一体どんな顔してオレから施しを受けているのかすごくそそられたけど、確かめるような余裕は正直なくて栄口の腹ばかり見ていた。まだ多少抵抗はあるけど怖いのは最初だけ、口の中で全部の温度が一緒になるのがなんだかうれしい。
「やっ、も、でるから」
 栄口がいきそうなのはわかるんだけど、上下の動作をどこでやめたらいいのか見当もつかない。そのまましばらく動いていたら、ちょうど『上』のあたりで肩と髪を掴んでいた指がいっそう強くしがみつき、股を割って入るオレを脚がきつく挟み込んだ。
 放たれた液体がだらりと口の端からこぼれそうで慌てて口を押さえ、でも明らかに異物のそれを飲み込むこともできなくて、脚を広げたままぼんやりしている栄口を置き去りにしてオレは水飲み場まで一目散にダッシュした。
 暗い水飲み場、吐いて流して水を含み、そしてまた吐いた。惜しみなく水は流れ、さっき口の中に入っていたものは跡形もなく排水溝の奥へ消えた。
 もう練習している部活はいないようで、蛇口からジャージャー溢れる水音とオレの荒い呼吸音がやたら大きく響く。さらに一回うがいをして口をぬぐったら、ようやく部室に一人取り残してきた栄口のことを思い出した。
 どうなんですかね、さっきのオレ。咥えて出させてそのまま逃亡なんて、ちょっと、いやかなりよくないかも。あんなにがんばったのに最後の最後にあんな失敗するなんて予想してなかった。うー嫌われたくないなぁ……って水飲み場でまごまごしていたら、帰ってこないオレを心配して探しに来たのだろう、当の栄口に見つけられてしまった。
「水谷、大丈夫……?」
 うわっオレの彼氏超やさしくない? むしろやさしすぎる! 別にオレがしたくてさせてもらったことだし、飲めなかったのも経験値が足りなかったからだから気遣わなくていいのに、栄口は二番目にだってこんなにやさしい。すごい、人ができている。
「さっかえぐちっ」
「ん?」
「今度はオレっ、ちゃんと全部飲むから!」
 オレが感情に任せてそう言ったときの、栄口のドン引きした顔、まだ覚えてる。

作品名:獣のようにもう一度 作家名:さはら