二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

獣のようにもう一度

INDEX|4ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 


オレが頼ったのは栄口と同中出身の阿部で、でかい、重い、かさばると散々愚痴りながらも次の日卒業アルバムを持ってきてくれた。それを開き、ひとりひとりじっくり「ミキ」って名前がいないか調べてみる。途中栄口の顔を見つけ、へらりと顔が緩んだけど気を取り直す、このクラスにミキちゃんがいるんだよね?
 けれどミキなんて子はどこにも見当たらない。もしやと思ったミキコもミキエもいない。すべてのクラスの女子の名前を確かめても結果は得られず、混乱したオレは男子の名前をも指でなぞりだした。その中で一人だけ漢字の読みに当てはまる人がいたけど、そいつは男だったので、まさか、とオレの背筋がごごおーっと逆立った。
「あ、阿部、阿部と同じクラスのこの人の名前、『ミキ』っていうの?」
「『よしき』だよ、バーカ」
 阿部の冷たいツッコミでようやく我に返った。オレ取り乱しすぎてたかも。だって全学年ン百人の中のどこにもミキなんて名前の人はいなかったんだもん。
 これは一体どういうことなんだろう。栄口は確かに「中学のとき同じクラスだった子」って言ったよね? 阿部は何か知っているだろうか……でも阿部と栄口の付き合いは高校からみたいだから、中学のときの栄口の人となりを聞いてもおそらくなしのつぶてだろう。
 あまりにも謎すぎて胸の奥から深いため息が出た。阿部はオレがおごってやった牛乳をずるずるとすすっている。今の自分に足りないのは客観性、栄口が好きすぎて周りが見えなくなっているオレへ、外側から見た第三者の意見を教えて欲しい。
「あべあべ、好きでもない子がクチでしてくれるのってどう思う?」
 吸っていたストローを勢いよく逆流させてしまったようで、牛乳パックの中で低めの変な音がした。阿部はしかめっつらでしばらく考えたのち、その表情を崩すことなくオレへ告げた。
「そういうのって公衆便所っていうんだぜ」
「ひっどい!」
「水谷そういう奴がいんの?」
 いや、オレ自身がそういう奴なんですけどね、とは言えず適当な嘘で口を濁した。
 阿部のひどい例えは今のオレの状況を如実に表現している。誰だって自分ちのトイレが一番よくて、公衆便所なんてあまり利用したくない。大好きな彼女のミキちゃんで賄いきれない部分を、一方的な好意を持つオレが強引に補っているだけで、どんなにがんばったって栄口にしてみれば愛着も情も湧いてないだろう。でも栄口はそんなオレにもやさしい気がする。もしかして勘違い?
「阿部はその子のことが好きじゃないんだけど、その子は阿部が好きだからしてあげんの。それってなんだろ?」
「なんだそりゃ、ボランティアか?」
 ぼぼぼぼぼらんてぃあ! 今度はボランティアですか! オレのこんなに好きな気持ちは他人から見たら社会奉仕活動なのね……、なんかヘコむわぁ。しかし阿部はいつだって的確にオレを地獄へ落としてくれるな、この手際の良さ、感動ものだよ。
 じゃあ今の同じクラスなのかなと赴いた一組では、好都合なことに栄口の姿はなかった。
「巣山、一組にミキって名前の女の子いる?」
「下の名前はよくわかんねーなー、女子に聞けば?」
 そう言われたので、今度は数回言葉を交わしたことのある女子に尋ねてみた。
「いないよ? アキコって子ならいるけど……」
 いくらオレの耳が悪いったってアキコとミキは違いすぎるよなぁ。その女子にありがとうと礼を告げたら、ちょうど教室へ戻ってきた栄口と目が合ってしまった。
「水谷、女子と何喋ってたの?」
「あっ、あれれ? やきもちですかー?」
「別にそんなんじゃ」
「栄口がオレにやきもちやいてくれたー! うれしー!」
 こういうとき大抵冷めた目で見つめてくる栄口が今回はなぜか超笑顔だったので、ただならぬ恐怖を感じオレは尻尾を巻いて七組へ帰った。栄口くん最近オレの扱い方覚えてきているよね。
 しかしなんでだろ、栄口の周りどこにもミキちゃんが見つからない。わりとかわいくて同じクラスだった、オレがどんなに努力したって適わないミキちゃんは一体どこにいるんだろう?

作品名:獣のようにもう一度 作家名:さはら