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獣のようにもう一度

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 お疲れの「お」の字を発声に被せて、オレはでかい声で栄口を呼び止めた。
「待ってぇ、一緒に帰ろ?」
 栄口は肩に掛けたバッグを下ろし、戸口のあたりで「早くしろよー?」といつものように笑った。ほかの野球部連中にはまた水谷が栄口に迷惑掛けてんだな、くらいにしか認識していないんだろうけど、オレにはすっごい怖かった。栄口はオレと視線を合わせなかった。
 それにオレはずるい。二人の間にある秘密を知らないみんなの前で呼び止めれば、他人目を気にする栄口は絶対にオレを無視したりしないことを踏まえてこんな強攻策に出てしまった。だって朝から徹底的に避けられてまくっててしんどかったんだもん。
 オレが恐れているのは、一世一代の情けない告白も、愛ゆえに身もプライドもかなぐり捨てた奉仕活動も、すべてなかったことにされて栄口の二番目のポジションを失うことだった。どれだけ嫌われてもいいからそばに置いて欲しいんだけど、もう無理かなぁ。無理なら無理で理由が知りたい。オレがどんなダメなことをして栄口に嫌われてしまったのか教えて……目も合わせてくれないくらい毛嫌いされてしまったのならもう教えてくれない気がする。
 着替えのトロいオレは今日も最後に残ってしまい、栄口は花井から鍵当番を引き受け、戸口のあたりで立っている。やたら重い空気の中、部室にはオレの衣擦れの音しかしていなくて超気まずい。昨日の「なんで?」も、「どうして?」も言い出しにくい雰囲気。
「軽蔑しろよ」
 ふいに強張った声が聞こえて、オレの背中まで硬くなった。栄口は腕組みをしてどこか不機嫌そう。今まで見たことのない栄口の姿がぶっちゃけ怖いのです。
「な、んで……?」
「水谷の思ってるとおりだよ」
「えっ、オレ全然わかんない……」
「ミキなんて人、最初からいないよ」
「いないって?」
「いない、オレの想像の中の人だよ」
 そうか、想像の中の彼女が一番で、オレはやっぱり二番なんだなって納得したら、栄口は分が悪そうにオレの思い違いを直しにかかってきた。
「だからミキなんていないって言ってるだろ」
「えっ? だから、想像の人が一番目で、オレはその次なんでしょ?」
 あまりの話の通じなさに栄口がガクリと肩を落とした。正直オレにはまだよくわからない。どうして栄口を軽蔑しなければいけないのか理由が浮かばない。
「だーかーらー、オレがお前に相談してたこと全部嘘だったってことだよ」
「そーなのかー」
「怒らないの?」
「オレだって嘘ついてたし、栄口を責められないよ」
「お前が全部吐き出したときに、オレも自分の嘘を打ち明けられなかったんだぞ」
 オレがうっかりまた理解不能を表情に出してしまったのを見破ったのだろう、栄口はわなわなと震え、珍しく大きな声でオレを責めた。
「だから! 全部嘘だったって言ってるだろ! ミキなんていないし、相談の中身も全部オレの作り話だったんだよ! フミキから最初の文字取ってみろよ、ミキになるだろ?」
「あっ、そういうことか」
「……疲れた」
「いやん」
 せっかく説明してくれたからうんうんと首を縦に振ったけど、実は依然として塊は大きいまま噛み砕かれることなく頭の中にあった。とりあえずミキちゃんって人はいないのね。
 じゃあなんでオレに栄口は彼女がいるなんて嘘をついたんだろ。つらっとそう口に出してしまったら、栄口は居心地悪そうにぼつぼつと理由を語り出す。

作品名:獣のようにもう一度 作家名:さはら