その唇で蝕んで
「どうしたの? 今日はやけに大人しいじゃないか」
「…別に」
なんか今日は本当に静かすぎないか、シズちゃん?
いつもなら俺が近づいただけで警戒心の強い犬みたいにすぐ威嚇するのに…それにさっきから俯いてばっかで俺の方を向いてない。
なんか、すっごいムカつく。
「ねえ、なんなの? 俺に用があるならさっさと言ってよ」
戦う気もすっかり失せてナイフをポケットに仕舞う。
どこか元気がないようにも見えるけど、もしかして体調悪いとか。
伊達に毎日ちょっかい出してないからね。落ち込んでる時とか悲しんでたりするとわかるんだ。
それにほら、シズちゃんてアレで結構わかりやすい性格してるし。見てればわかるよ。
…別に深い意味はないよ?
「…………」
俺がそう聞いてるのにシズちゃんは黙りこくったままで、何も答えない。
それが俺を更に苛つかせて、その沈黙のむず痒さに鳥肌を立てるとシズちゃんに怒った。
「いい加減にしてくれよ、さっきから何なんだ。…君がそんなだとこっちまで調子が狂いそうだよ」
そんな俺に漸くシズちゃんが顔をあげる。
そうして見た彼の顔は、今まで見てきた顔の中でも一番情けない顔をしていた。
喩えるなら、そう、彼がまるで人間のような戸惑った、困惑した表情だ。