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だぶるおー 天上国 王妃の日常4

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 なんとなく、無事に鞘に納まったことは、周囲も気付いた。これで、どちらも落ち着いて暮らせるだろうと安堵する。スメラギとカティは、執務室で、やれやれと肩の荷を降ろしていた。ニールは、甘えるのが下手なので、そこいらを刹那がどうにかしてやれればなあ、なんて話していたからだ。ライルが、甘えん坊で我侭一杯だった分、ニールは大人しかった。そして、妹が生まれて、さらに、母親の愛情は分散された。「お兄ちゃんだから、我慢してね。」 と、言われれば、大人しく待っているような子供だったからだ。だから、自分から愛情を欲して甘えるというのが下手だ。刹那にだって、そうすればいいのに、できなくて逃げていた部分もあったのだ。
「まあ、落ち着いたなら、これから徐々に、そこいらも埋めていけるんじゃないか。」
 先代の奥方から、くれぐれもニールのことを頼む、と、言われていた二人としても、落ち着いたニールの様子は喜ばしい。
「乾杯しない? カティ。」
「そうだな。たまにはいいだろう。」
 王と王妃が夫婦らしくなってくれれば、ソレスタルビーイングの内政も安定する。王が精神的に不安定では危険極まりない。王が目指すものは、とてつもなく大きなものだから、王国が安定していなければできない。それもあって、ニールに、刹那を受け入れて欲しかったのだ。
「さあて、下準備も始めるか? 」
「そうね。戦術予報士の私たちが、まずは情報を把握しなくちゃ始まらないわ。」
 稀代の戦術予報士ふたりは、カチンとグラスを合わせた。慌てなくてもいいのだ。ゆっくりと前へ進めればいい。人間より長生きな自分たちだから、できることは、たくさんある。戦いのない世界を作り出す、という王の命題は、遣り甲斐のある仕事だ。まずは、世界の情勢を正確に読み解いて、勢力分布や内政状況を把握しなければならない。
 本来のふたりは、それが本業だ。ようやく、力が発揮できると乾杯している。クラウスの情報網も本来は、彼女たちのためのものだからだ。
「だいたい、あの子はね、引っ込み思案なのよ。もっと、こうぱあーっとやればよかったのよ。」
「それができるくらいなら、ここまで拗れなかったんじゃないか? スメラギ。それに、あれは、たらし能力の弊害だ。」
 男が、自分に惚れてしまうのは、たらし能力の効きすぎだと思っているニールからすれば、刹那に、「好きだ。」 と、言われても信じられないのはしょうがない。それが、絶対に能力に左右されないはずの妖精王でも認められなかったのは、カティも理解している。そうじゃないと覆すのは、刹那が自分でやることだったし、ニールも自分で気付くべきだった。だから、ヒントしか与えなかったが、概ね、良好に事態は推移した。
「しかし、あれだけ大切にして、あれで、そんな気はないっていうニールのほうがおかしいんだろうな。」
「ないんじゃなくて気付かなかったが正解でしょ? あれだけ、べたべたでいちゃこらしてて、何が仮免許だったんだか。」
 最初から、刹那はニールしか見ていなかったし、そんな刹那を大切に世話していたのはニールだ。こうなって当たり前だ、と、イオリアもディランディ家の先代も考えていたから、カティとスメラギは頼まれていた。王妃に指名された時も先代の奥方は、何よりだ、と、大喜びしたのだから。






 なんか雰囲気変ったなーと、ジョシュアが気付いたのは、ニールが復帰してから十日ほどしてからだ。どこか穏やかになったというか、地に足が着いたというか、そんな感じだ。教授の手伝いも、やはりニールがするほうが順調に進むものらしい。設計は、決定版になった。後は、石材の調達と基礎工事の開始に移行する。
「教授、もし、お帰りになりたければお送りいたします。」
 エイフマン教授に依頼していたのは、設計の手助けだ。だから、仕事は終ったといってもいい。だが、エイフマンのほうが、完成するまで滞在させてもらう、と、言ってくれた。学究一筋だった教授は、家族もないので、慌てて帰る必要はないと言う。
「もしかしたら、このまま居座るんじゃないか? 」
 仕事を終えての帰り道、ジョシュアは、そう言い出した。研究するなら、どこでも同じことだ。ここは、誰もが入れる場所ではないし、技術としても進んでいる国だ。教授にすれば、願ってもない場所だろう。
「そうなるといいな。俺も、教授が、そうしてくれると嬉しい。いつも、イアンのおやっさんに無理ばっかり言ってるからさ。」
「そうだよなあ。あの人とリンダさんで、ここのものは作っているっていうんだから忙しいよな。」
 イアンと、その妻のリンダが王立技術院の責任者だが、実際、このふたりが、様々な武器や武具を開発している。魔法力を、そちらに使える人間というのは少ない。だから、負担としては大きなものになっている。
「そういう技術系の人を、もう少し召還したいんだけどな。」
「なら、たらしちまえば? ここにいてください、っていえばいいんじゃないのか? 」
「あははは・・・そんなあからさまな。まあ、こっそりやってるから。」
「やってるんじゃないか。」
「そういや、ジョシュア、おまえさん、里帰りしたくなったら遠慮なく言ってくれ。」
 ジョシュアが、こちらに来て、まだ三ヶ月に満たないが、それでも帰りたいと思うこともあるだろうから、ニールは提案する。遠く離れているので、家族のことも気になるだろうと思ったからだ。
「仕送りだけしてたら、別に帰らなくてもいいさ。」
 まだ、故郷を離れてから一年もたたない。まだ大丈夫、と、ジョシュアは言う。以前より、そちらの情報も届くから、ユニオンにいた時よりも気分的に楽だ。大雨だったとか大風が吹いたとかいうことが、ちゃんとジョシュアの耳にも届くのだ。すべては、遠見の力というものだ。特定の家族を映すことはできないらしいが、故郷の情報は有り難い。村の収穫祭だのの情報が入れば、その規模で村の経済状態もわかる。
「一年に一度くらい帰れよ。」
「ああ、そうさせてもらう。・・・仕送りな、末の妹が、働けるぐらいになったら終れると思う。それまでは働かせてくれな? 」
「うちは、いつまででも歓迎だ。なんか、おまえさんは評価高いぜ? 」
「そりゃ、あれだ。ニールを暴走させないし、ツッコミできるからだ。」
 今まで、ニールの暴走を止められた人間は、王国にはなかった。なんせ、男たらしだし、唯一、止められるはずの王でさえ止められなかったからだ。お陰で、勝手にいなくならなくて大助かりとか言われて、ジョシュアの株はうなぎ登りなのだ。
 だが、最近、ニールは外へ行かなければ、とは、言わなくなった。もちろん、必要はあるから考えてはいるが、焦っている雰囲気はなくなった。どこか落ち着いているのだ。ま、夫婦でいろいろとあったんだろうと、ジョシュアも思っている。いるが、それは言わぬが花というものだ。

 城の門を入ると、デュナメスが待っていた。たまには、俺とデートしてくれ、と、言っているらしい。ニールの答えている言葉で、それぐらいはわかるようになった。
「じゃあ、ちょっとだけ走ろうか。ジョシュア、おまえさん、どうする? 」