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骨に刻んだ約束の証

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 美香がその場へ着いた時、罪歌に操られた杏里が少年へと刀を振り下ろしているところだった。相変わらず加減を知らない妖刀だ、と嘆息しつつ、少年が過失致死になるのも杏里が殺人犯になるのも美香の望むところではないので、園芸用の金属スコップを投擲して刀の軌道を逸らす。ガキン、と金属音がして、次いでガラン、とスコップは地面へと落ちた。
「……何の真似かしら■■■■■」
反射でスコップを弾いてから美香の存在に気付いたらしい罪歌は、彼女と少年の間に入り込んだ美香を睨め付ける。
「兄が妹を守っちゃいけないの?」
己でもおかしな事を言っているとは思うが、言いながら拾い上げたスコップをベルトに掛けたホルダーへと戻し、もう一本、園芸用のそれと共に買ってきた土木作業用のそれを両手で持ち、構える。
「私は愛したいだけよ」
「婚前交渉はしない約束だったでしょ」
「この国この時代にそれが罪に問われる法は無いわ」
「法律が無いなら良いなんて、そんな相手に妹は任せられない」
以前の身体なら容易く扱えただろう道具はこんなにも重く、冷たくて手に馴染まないが、それでも構えは崩さない。
「こんにちは、竜ヶ峰帝人君。説明は後で必ずするから今すぐに誰か呼んで、この先は行き止まりなの」
肩越しに頷いた帝人が携帯電話を操作するのが見え、美香は罪歌へ向き直る。こんな状況で説明を省かれたにも拘わらず不平不満を言わない事にやや疑問を感じたが、説明している場合ではないので有難い。
「もしもし、セルティさん?」
ところが彼の口から出てきた名前は予想外だった。幼馴染に誘われて池袋へ来たらしいのでその幼馴染を呼ぶかと思いきやまさかの都市伝説、聞き間違いと思いたいが現実逃避が許される状況でもない。そしてこれで彼の反応にも納得がいく。いつの間に接触したのかは知れないがセルティから概要を聞かされ、罪歌への対策をそれなりに練ってきていて、その対策にセルティが協力している。再契約しているかは兎も角、彼女が協力者ならば帝人が単身で逃げ回るよりもかなり高い確率で彼は無事でいられる。
――今更だ
 確かに美香はセルティに合わせる顔が無い、だから会いたくはなかった、しかしそれは自業自得だ。この顔にした理由も池袋にいて、どうせ遠からず彼女の知れるところとなり、■■■■■は張間美香として失望される。その覚悟は出来ていた筈だ、何を戸惑う事があろうか。
「もうすぐ其処まで来てるそうです」
 再び振り下ろされる刀をスコップで弾く。振動が伝わって腕まで痺れそうだったが、それでも次の攻撃を予測する。
「そう、分かった」
セルティが来さえすれば終わる。長くは保たないだろうが端からその心算なので支障は無い。
「あの死神が来るのあらそれは急がないといけないわあの死神に連れ去られる前に愛し合わないと」
 言い終えるか否か、今度は横一文字に振るう刀を叩き落とす。普通の刀ならば押さえ込んだが罪歌はそうもいかない、体内へ退かれてしまっては意味が無いので次の攻撃に対応すべく構え直す。
「■■■■■■■■■が選んだならと納得したでしょう合意の上なの愛し合ってるのよそれなのにどうして邪魔するの」
叩き落した刀が振り上げられる。
 それを弾こうとした瞬間、馬の嘶き声が裏路地に響き渡る。
「セルティさん!」
帝人が安堵と共に彼女の名を呼んでいる。美香は気が緩んだのか逆に緊張したのか一瞬、動きが止まる。その一瞬の隙を突いて罪歌は美香の手からスコップを叩き落とし、帝人へ駆け寄ると
「……え……?」
彼の右腰骨を貫いた。
「■■■■■■■■■!!」
 もういない筈の妹の名を叫ぶ。
「ああこれで私のものよ竜ヶ峰帝人」
 刀身が引き抜かれた事で滲み出る血が帝人の服にじわりじわりと染み込み、叫ぶ声も無く彼は地面へ倒れ伏す。
「赤く染まって綺麗だわ破瓜だものねだからこそ余計に愛しいわねえ覚えていてその痛みも傷も私の愛の証なの!」
 建物の壁伝いに降りてきたバイクに跨ったセルティが影で鎌を形成し、高らかに愛を歌いながら走り去る罪歌を追おうとしているが、傷が致命的か否かは分からない。
「セルティさん!」
彼女には帝人を医者に運んで貰わなければならず、呼び声にそれを察して振り返った彼女はしかし、美香の顔を見て鎌を取り落とした。
『もしかして、おまえ、その、首!?』
混乱している所為か落とした鎌の形状がおかしな事になり、PDAの画面に並ぶ文字も文章になりきれていないが、言いたい事は嫌でも分かる。
「後でいくらでも詰ってくれて構いません。でも今は妹を、彼をどうか」
土下座する心算で膝を折り、しかし頭が地に着く前にPDAを向けられた為に片膝を着いただけに終わる。
『詰られる覚悟で帝人を助けてくれたんだろ。話は聞くからお前も来い』
 相変わらずお人好しだ、と苦笑した。そんな性格だから帝人を気に掛けてくれているのだろうが、かつてはかつて、現在は現在だ。以前と何もかもが同じとは限らない。
「……私は、貴女を害するかも知れないのに?」
『その時はその時だ』
影で作った止血帯を帝人の傷に巻き付けながら同時にヘルメットも作って投げて遣す。
 これ以上の問答は無用だろうと美香は受け取ったそれを被った。
作品名:骨に刻んだ約束の証 作家名:NiLi